営業という職種を見てみると、ロボットやAIの導入によって付加価値の高いコンサルティング営業の従事者数は114万人増加するが、定型業務を行う販売員などについては68万人減少するとしている。また、製造部門については、単純作業や単純知識に依存する労働者の仕事が失われることで297万人の減少に、コールセンターなどサービス業務も51万人の減少となっている。コールセンターについてはすでにロボットの導入が始まっているので、人員削減は現実的な話題かもしれない。

 一方で、ロボットやAIの導入は単に労働者の仕事を奪うだけではなく、それに伴って新しい仕事を生み出す可能性も秘めている。米国ではグーグルなどハイテク企業のオフィスがある街では、こうしたハイテク産業の社員が1人増えるだけで、数人分のサービス業の雇用が生まれるとの研究結果もある。単純に仕事が奪われるだけというのは悲観的過ぎる見方だろう。

やはり雇用の流動化は避けられない?

 ただ、経済産業省の試算は、あまりにも楽観的なマクロ経済予測に基づいており、この結果を額面通り受け取るのは少々無理がある。

 ロボットやAIの導入で低付加価値の労働が消滅し、高付加価値の労働が増えるのは事実だが、日本国内で仕事に従事する人の顔ぶれが変わるわけではない。移民を数多く受け入れるという話であれば、今、日本にいる労働者とは別のスキルを持った人が新しい仕事を担うという解釈も可能だろう。

 だが現時点で日本はこうした政策を採用しておらず、同じ国民が、低付加価値の仕事から高付加価値の仕事にシフトしなければならない。当然、人員の再配置や職業訓練など、労働市場の流動化がセットということになる。試算ではこうした変革を実現するためには、円滑な労働移動が必要と主張しており、痛みを伴う改革を強く求めている。

 経産省の主張はまさに正論なのだが、今の日本社会にこの正論を受け入れる余裕があるのかは何ともいえない。経産省の支援によってロボットやAIを開発する日本企業においてすら、人員の再配置が進まないといった皮肉な結果にならないとよいのだが。