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先端テクノロジーにはどんなにリスクを洗い出しても予想外のことが起こりえる(写真はイメージ)

(文:冬木 糸一)

『人間VSテクノロジー:人は先端科学の暴走を止められるのか
作者:ウェンデル・ウォラック 翻訳:大槻敦子
出版社:原書房
発売日:2016-03-10

 最初に『人間VSテクノロジー:人は先端科学の暴走を止められるのか』という書名を見た時、うーんこれはどうだろうかと思ってスルーしかけたのだが試しに読んで正解だった。これはテクノロジーが急速に進歩し、議論が追いていかれてしまっている今こそ読むべき一冊である。

 書名からスルーしかけたのは「テクノロジーは人間と対立的に語られるべきものではなく、もたらされるリスクと利益の間を常に天秤にかけながら語られるべきものである」という前提をすっ飛ばしているではないかと思ったからだ。

 たとえば自動車が存在することによって「自動車事故」というリスクは発生するが、それだけでなく高速で移動できる利益もあるからこそ社会でこれほどに受け入れられているのである。敵も味方もなく、必要とされるのはバランスだ。そこを対立的に煽っても仕方がないだろうと思っていたのだが、書名を少し勘違いしていたようだ。

 邦題からはちとわかりづらいが、本書は原題が『A Dangerous Master How to Keep Technology from Slipping Beyond Our Control』であるように、我々の制御を超えて進歩を続けていくテクノロジーを目の前にし、『先進テクノロジーの採用に伴う潜在的な危険を想定して管理するさいの問題を検討し、さらにそれを予想される利益と比較考察する』ものである。