タンザン鉄道の車両(筆者撮影、以下同)

線路

 じっとりと汗をかいて目を覚ますと、顔にあたる日射しの中に緑のにおいが混ざって、鳥のさえずりのような女の子たちの声が聞こえる。「ワーマジ」「ワーマジ」「ニーワニーワ」と繰り返す彼女らの声は長く続いて、歌のフレーズに近かった。耳に残ってすっかり覚えてしまって、その日の日記に書き記したほどだ。

 まぶたを開くと四角い窓越しに青い空があった。空しか見えなかった。ここはどこだという旅のお決まりの問いに、しばし前夜の記憶を手繰り寄せ、私 は今アフリカ縦断中で、鉄道の旅をしているのだと結論づけた。だからここは、鉄道列車のコンパートメントなのだ。私は簡素な2段ベッドの下段に寝ていたので、起き抜けに空しか見えなかった。

 ベッドから身を起こしたところで、窓に切り取られた四角い空間の中に土色の線路が見えた。線路の上には色とりどりのワンピースをまとった物売りの女の子たちが、ぱらぱらと並んでこっちを見ていた。頭の上のプラスチック製のたらいに水が張られ、ペットボトルが何本か入っている。彼女らは窓越しに寝ぼけ眼の私を見つけ、透明なペットボトルを取り上げて差し出す。「ワーマジ」(水はいかが)「ニーワニーワ」(サトウキビもどう)

 ちょうど鉄道駅に差し掛かっていたようで、長いこと停車していた。線路の上を歩くのは何も物売りの子たちだけではなかった。移動を終えた一家、迎えに来た近所のおばさん、遊び場としてレールの上にしゃがみ込む子供たち、たくさんの人々で賑やかにごった返していた。みな大荷物。さっきまで同じコンパートメントで寝ていたおばさんも、大荷物と赤ん坊を同じように無造作に持って降りていったなと、起き抜けのあやふやな記憶が言っている。