日本人がこれほど「食料自給率」に怯える理由

日本農業、再構築への道 <1>

2010.10.13(Wed)川島 博之

 このような事情を持つ国で、農水省が食料自給率の低下を宣伝したのである。それは予想以上の効果をもたらし、多くの国民が低い食料自給率を危惧し、なんとか向上させたいと思うようになってしまった。

食料自給率50%の達成は物理的に不可能

 だが、ここに「罠」が隠されていた。

 農水省は、農業に対する国民の関心を引きたくて食料自給率の低下を宣伝したのである。しかし、多くの国民が本当にそれを信じてしまい自給率を上げたいと思うようになると、農水省はその方策を考えなければならなくなった。

 食料自給率を向上させることは極めて難しい(詳しくは次回以降に説明する)。国土と人口のバランスを考えた時に、日本のカロリーベースの自給率を50%以上にすることは物理的に不可能である。また、50%にするだけでも多額の税金が必要になる。

 民主党は来年度予算で、戸別所得補償制度を小麦などにも広げるとして約1兆円の予算を要求している。この政策を行う理由はいろいろあるが、その最も重要な大義名分は、食料自給率の向上である。しかし、当の農水省でさえ、1兆円使えば食料自給率が大幅に向上するなどとは考えていない。

 その一方で、この程度の税金の投入では、農家の収入もほとんど増えない。昨年度、農家人口は最大の減少を見せたが、税金を1兆円投入しても、その事態を変えることはできない。農家の経済状況は苦しいままである。

 なぜ、こんなことになってしまったのであろうか。それは、そもそも政治家も農水省も農民も、そして国民も、食料自給率を向上させなければならないなどと考えてしまったためである。

 農水省は「食料自給率を向上しなければならない」と宣伝した張本人であるが、政策経費が削減される中で、効率が極めて悪い「食料自給率向上」という政策を行わなければならなくなっている。自業自得とはいえ、農水省も苦しんでいるのである。

 日本は食料自給率向上などを政策目標にすることなく、農政の再構築を図るべきだ。そのことを議論する前に、次回は、なぜ食料自給率は低くてもよいのか、その理由について考えてみたい。

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