少し前にこんなニュースを見ました。水族館の浄化槽で、体長25センチ、体重360グラムの巨大金魚が見つかった、と。

 調べてみるとその金魚は、もともと水族館で飼われていた淡水魚の“餌”だったそうです。食べられる前に浄化槽に逃げ出し、7年もの間潜伏を続け、巨大化したのです。

 僕にはこんな粘り強さはありませんが、僕もこの金魚のように、どんな場面でも諦めずに挑み続ける人間でありたいものだなと思いました。

 というわけで今回のテーマは、「金魚」です。

ヒトリコは1人ではない

 額賀 澪 著『ヒトリコ』(小学館)

『ヒトリコ』(額賀澪著、小学館、1200円、税別)

 日都子がヒトリコになったきっかけは、金魚だった。

 小学5年生の日都子と、クラスメートの冬希は生き物係だった。クラスで金魚を飼うことになったが、日都子はクラスの人気者。面倒くさい金魚の世話なんかごめんだ。それを汲んだ冬希が1人で世話をかってでるが、冬希は転校することになり、金魚の世話は日都子に回ってきた。

 ある日、その金魚が死んでしまう。冬希に偏執的な好意を抱いていた担任の教師は、調べもしないまま日都子が金魚を殺したのだと断定した。人気者だった日都子は一転、その日以来、クラスのはみ出し者となり「ヒトリコ」と呼ばれるようになった。

 金魚事件以来、親友だった嘉穂、幼稚園の頃から仲の良い明仁、との3人の関係性は壊れてしまう。日都子は、ピアノを教えてくれる「キュー婆ちゃん」以外には心を開かなくなった。

 圧倒的な強さの中に時折弱さが同居するヒトリコのあり方、そして「後戻りできない何か」に常に心を刺されながらも中学・高校と進学していくクラスメートたちの姿を描いている。