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 もう数年前になるだろうか。ある友人の実家に招かれ、友人とそのお父様と夕食を共にした。ビールが進み、会話も弾んできた頃、友人は仕事で呼び出され、急遽、会社に戻ることになった。

 「せっかくだから、ゆっくりしてって」

 その言葉を残し、友人は家を出た。私もそのタイミングで失礼しようかと思ったが、食事が途中だったこともあり、食事を済ませてから失礼させていただくことにした。

 そして、私と友人のお父様で会話は続いた。

 「ところで、息子は頑張ってますか?」

息子の活躍を知らなかった父

 ふとそんな質問をされた。この友人は多くの人から人望を集め、仕事で見事な実績を残しており、私もその人柄や生き方に惚れ込んでいた。

 こんな素晴らしい息子さんの活躍を、もしかしてお父様は知らないのか。そんな疑問が頭をよぎり、「息子さんから仕事の話とかはあまりお聞きになることはないですか?」と尋ねると、「本人はなかなかそういう話をしないんですよ」と少し寂しそうに苦笑いしながら話された。

 そこで私は息子さんの人望の厚さや活躍ぶりについてお話しした。話の合間にお父様は「そうですか、そうですか」と嬉しそうに目を細め、うっすらと涙ぐみながら噛み締めるようにうなずかれていた。

 その表情を見ると私もだんだんと熱が入り、気がつけば1時間ほど話していた。

 「いくつになっても子供のことは気になるもんなんです。そうですか、息子はそんなふうに頑張っているんですか。親としては胸が膨らむような嬉しい話です。大きな財産ができました。ありがとうございます」

 気分が高揚された様子でお話しされるその姿を見ると、私も思わず涙ぐみそうになった。後日、私は友人にそのことを話した。

 「おまえ、余計なことを」と言いながらも、友人はどこか嬉しそうだった。