お盆の時期、我が故郷、徳島は阿波踊り一色に染まる。独特の笛の音色、太鼓と鐘の音が街のいたる所で鳴り響き、通りの真ん中を踊り子たちが艶やかに踊り入る。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」
これが阿波踊りのかけ声であり、コンセプトである。観衆は踊りを見ているうちに自らも楽しくなり、踊りたくなる。
多くの踊り子がいる中で、ひときわ観衆の注目を集める年配の女性の踊り子がいた。ぽってりとした体型、その踊りは他の踊り子ほど派手なものではない。
それでもその女性が観衆の注目を集める理由、それは笑顔だった。
笑顔は笑顔を呼ぶ
ほとんどの踊り子が道の進行方向を向いて踊る中、その女性は通りの両脇にいる観衆に向かって満面の笑みで微笑みかけ、観衆と一緒に踊りを楽しんでいた。心から踊りを楽しんでいるその笑顔は、彼女の踊りまでも優雅に見せるものだった。
その笑顔と醸し出される優雅さに、観衆は見入り、そして笑顔になっていった。
踊りは上手いが表情の硬い踊り子よりも、踊りは下手でも心から踊りを楽しんでいる踊り子の方に自然と目がいってしまう。何人もの踊り子が踊り行く光景を眺めながら、そんなことを感じていた。
硬い表情で踊っている姿を見るとこちらまで表情が硬くなってくる。心から踊りを楽しんでいる姿を見るとこちらまで楽しくなり、思わず笑みがこぼれる。
何かを表現するとき、発信者の心の状態は相手や観衆、聴衆に伝染していく。
人間の脳内にはミラーニューロンという神経細胞が存在する。ミラーニューロンとは、他の個体の行動や感情に反応し、それを模倣しようとする働きを持つ。
人間はこのミラーニューロンの働きによって、場を共有する人間の感情を無意識のうちに読み取り、その感情に同調しようとする。また、この作用によって他者の話を聞く中で共感したり、その相手と同じ体験をしているかのように感情移入したりすることができる。