1 シーバトル構想の誕生とその背景

 この構想は、マーシャルらが冷戦終結直後に「将来、米軍の前方展開戦略に脅威を与える国家が出現し、前方展開型戦力投射が困難になる」と警鐘を鳴らした1993年11月の報告を出発点にしている。

 それが、20年近く経過した今、米軍と同じような対称能力を西太平洋地域で保有しようとする中国、および核装備を目指しつつも非対称的な能力で狭隘なペルシャ湾支配を目論むイランの出現で再び注目されることになった。

 構想誕生の背景には、中国の対アクセス/地域拒否(Anti-Access/Area Denial:A2/AD)戦略により西太平洋における米軍の前方展開戦略が脅かされているとの認識がある。

軍事バランスを維持すべきか、失っても構わないか

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アフガニスタンでの戦費拡大は米軍に重くのしかかる〔AFPBB News

 米国は、対決地域が中国に近い地政学的条件に加え、膨大な軍事投資が重なって徐々に軍事バランスが中国有利に傾斜し、死活的重要地域への軍事アクセスを失うか安定した軍事バランスを維持するかの選択を迫られていると考えている。

 また、強い財政的制約にもかかわらず、米陸海空各軍が整合性を欠きコスト効果の低い過剰な軍事投資を続けようとしているとの国内認識も強く存在する。

 これが、国防投資の非効率だけでなく、教義(ドクトリン)の不一致、装備の互換性や相互運用性の欠如、さらには陸海空の文化の違いによる軍種間摩擦に及んでいるとの認識である。

 特に2010QDRや2010年以降の国防予算で大規模投資を伴うプログラムが中止もしくは削減されつつある海空軍に対する、勢力拡大に躍起になるよりも軍事戦略主導の統一した構想を確立してほしいとの期待感もある。

 悪く言えば、陸軍と海兵隊のアフガニスタン向けの7万5000人の増員に対し、削減される一方の海空軍の不満を沈静化させる策だとの悪評につながるゆえんでもある。

 純軍事的な意味合いも大きい。

 冷戦時代、ソ連の膨大かつ縦深におよぶ機甲戦力に対し、戦術核の先制使用も視野に入れアクティブディフェンス(積極防御)で対抗しようとしていた米国・北大西洋条約機構(NATO)軍にとって、戦術核の全面核戦争への発展の懸念が最大の悩みであった。

 それが、核の敷居を越えることなく通常戦力でソ連の戦力を確実に減殺・阻止できる戦略・戦法と技術の開発、すなわち、陸空軍を中心に全縦深同時打撃によるエアランドバトル構想およびビッグファイブと言われる戦車・装甲戦闘車・攻撃ヘリ・戦闘ヘリ・地対空ミサイルの開発につながった。

 2度の湾岸戦争は、ネットワーク中心の「縦深を見る」目標情報と「縦深を射撃する」打撃手段を吻合させ敵部隊を正確に打撃するエアランドバトル構想の成果として、テレビを通じて世界を驚愕させた。これらの成功体験も拍車をかけている。

 そして、今やそれらすべてが重なって海空軍主導のエアシーバトル構想へとつながりつつあるのである。