2020年に予定されている東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場について、事業主体の独立行政法人JSC(日本スポーツ振興センター)は7月7日、有識者会議を開き、総工費が2520億円にのぼる建設計画を決定した

 この工費は予算1300億円を2倍近く上回るが、「これ以上、決定を遅らすとオリンピックに間に合わない」という見切り発車だ。安倍首相も問題があることは認めつつ「今から手直ししていると2020年のオリンピックに間に合わない」と言っている。

最初から無理だった夢のデザイン

 発端は3年前にさかのぼる。当時、東京都は2020年のオリンピックに立候補しており、新国立競技場はその目玉になる予定だった。当時すでに第1次選考が終わり、IOC(国際オリンピック委員会)の視察が始まっていたため、2012年7月に国際コンペの募集が始まり、9月中に締め切り、11月に最終決定という短期間でデザインが決まった。

コンペで最優秀になったハディド案(JSCホームページより)

 コンペの結果、当選したのが上の図のザハ・ハディド案だった。審査委員長の安藤忠雄氏は「スポーツの躍動感を思わせるような、流線形の斬新なデザインである。橋梁ともいうべき象徴的なアーチ状主架構の実現は、現代日本の建築技術の粋を尽くすべき挑戦となる」と絶賛した。

 その特徴は、巨大な「キールアーチ」と呼ばれる2本の橋のような構造物を会場の上にかけてドームを支える独特の構造である。キールアーチは橋に使われるもので、このような建築物に使われた実績はなく、桁長400メートルもある曲線の橋が地震に耐えられるのかどうか分からない。

 しかしわずか2カ月の審査では構造計算もできず、予算の査定もできないので、単なる「お絵描き」の状態で、デザインを決めてしまった。その後、専門家が技術的チェックを行なって予算を査定したところ、工費が3000億円以上を超えるという報告が2013年10月に出た。しかしこの直前の9月に東京はオリンピックに当選し、祝賀ムードに沸き返っていたため、これはほとんど問題にならなかった。

 安倍首相は国会で「今回の設計は民主党政権で決まったものだ」と答弁したが、予算オーバーが明らかになったのは安倍政権になってからだ。官邸にも十分な情報が上がっていなかったようだが、ここで方針転換しなかったことが最大の失敗だった。