今年上半期だけで警察官に500人以上も殺されている米市民――。
冗談ではない。市民を守るはずの警察官に撃たれて死亡する人は今年、全米で1000人に達する見込みだ(司法省司法統計局)。
1日平均で換算すると、米国ではなんと2.7人が警察官の銃弾に倒れているのだ。一方、日本では昨年、警察官によって射殺された人はいない。英国でも数字はゼロで、警察官による発砲が3件あったに過ぎない。
米国は「銃社会」と言われて久しいが、あまりにも容易に警察官が市民に銃口を向けてはいないか。しかも、射殺した警察官が起訴されることが少ない。いったい何が起きているのか。
話を進める前に、あ然とさせられる事件をご紹介したい。日本のメディアにはほとんど紹介されていない警察官による射殺事件である。
2人に発砲された弾は137発
時間を2012年まで巻き戻す。米中西部オハイオ州クリーブランド市。同年11月29日夜間、黒人カップルが市内を米ゼネラル・モーターズ(GM)のシボレーで走っていた。
女性マリッサ・ウィリアムズ(33)を助手席に乗せて運転していたティム・ラッセル(43)は、交差点でウィンカー・ランプを出さずに曲がった。
そばにいた警察車両はそれを見逃さず、すぐに追跡する。警察官マイケル・ブレロ(31)は運転者ラッセルに、路肩に停まるように命じたがラッセルは停止しなかった。
そこから追跡劇が始まる。ラッセルは最高速度、時速160キロ以上のスピードで逃げた。ブレロは追跡を続けると同時に付近のパトカーに応援を要請。最終的に警察車両は62台に膨れ上がり、動員された警察官は104人に達した。