「アホ!・・・あ、東京の人にこんなこと言うたら怒られるわ」と言われながら手術や診療に励むのはなかなか刺激的な毎日だ。私の名前は前田裕斗。生まれも育ちも東京で、開成学園高校、東京大学と経て初期研修は神奈川県の川崎市立川崎病院で修了した。だが産婦人科として後期研修を始めるにあたり、関西は神戸という全く縁も所縁もない場所を選んだ。その理由について詳細は前稿 (MRIC Vol.188「私が『関西武者修行』を選ぶわけ」) に譲るが、ごく簡単に言えば「見知らぬ土地での修行を通して仲間を作り、自ら物事を決める力を培うため」である。

 本稿では実際に関西で研修を行い改めて実感したことを紹介するとともに、地元を離れて研修を行う利点について述べる。その利点は大きく分けて3つ。異文化を吸収できること。地元を相対化できること。そしてなにより貪欲になれることである。

 はじめに「異文化を吸収できること」である。勿論技術面、診療内容も含むが最も違うのは人だ。関西人はハッキリとものを言う。

 冒頭の台詞は手術中に1つ手順を飛ばしそうになった私にある先生が放ったものだが、確かになかなか関東の病院では聞きそうにない。また、カンファレンスでも後期研修医が上級医の手術方針と異なる自分の意見を主張するなど、刺激的な場面もよくみられる。このように関西では自身の考えを持ち、より明解な発言が求められる。関東で育ってきた自分の弱点でもあり日々鍛えられている。

 次に「地元を相対化できること」だ。東京のよさは、東京を離れてみないとわからない。例えば離れてわかる東京の利点は、何もかもがまとまっていることだ。東京の人口密度は兵庫の約2.5倍。単位面積あたりの駅数はなんと約8倍。関西は駅間が広いため移動に車や電車が必要なことが多く、仕事終わりに勉強会にというのはややハードルが高い。その点東京は23区内なら自由自在に移動でき、人も集まりやすい。情報が集まるのはやはり東京だ。