5月14日、安倍政権は安保法制の内容について閣議決定を行った。安倍政権が提出する安保法制(正式には「平和安全法制、後述)は、2014年7月1日に行われた閣議決定に基づき、これまで憲法上「保有はしているが行使はできない」とされてきた、集団的自衛権の行使を可能にする内容が中心となっている。
同時に、安保法制の閣議決定に先立って、4月27日に日米両国で合意された新たな「日米防衛協力のための指針」(日米ガイドライン)においても、「日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」として、日本側の集団的自衛権の行使を前提とした内容に注目が集まっている。
しかし、筆者の見るところ、今回の安保法制と日米ガイドラインの内容において、集団的自衛権の行使が可能になったことを必ずしも過大に評価すべきではないと感じる。この変化は憲法上の「歯止め」を強調する従来路線の延長線上のものであって、実際には集団的自衛権の行使はそう簡単ではないと感じられるのである。
また、安保法制と日米ガイドラインにおいて、本当に重要な部分は集団的自衛権行使に関わる部分ではないとも感じられる。そこで、筆者がなぜそう感じるのかについて、これから複数回に分けて解説してみたい。
今回はまず、なぜ集団的自衛権の行使が可能になったことを過大に評価すべきではないか、について言及する。
書き加えられた集団的自衛権の行使に関わる記述
周知の通り、今回の安保法制(注)と日米ガイドラインの柱となるのは、集団的自衛権の行使に関わる部分であるとされている。安倍政権は昨年7月1日、閣議決定を行って、従来の憲法解釈で「保有はするが行使はできない」とされてきた集団的自衛権の行使についての考え方を修正した。
(注:安倍政権は自衛隊の海外派遣の恒久法としての「国際平和支援法案」と、武力攻撃事態法や自衛隊法、周辺事態法など10の法律を一括改正する「平和安全法制整備法案」の2つの法案を国会提出しており、併せて全体を「平和安全法制」と呼ぶ。ただし、本稿では従来定着してきた「安保法制」という呼称を用いる)