経済学は、完全雇用やインフレなき安定成長を実現するための理論を追求し、経済効率の良い資源配分を促すための学問である。しかし近代経済学は、中国のような「開発独裁」と呼ばれる経済運営を説明するのにはほとんど無力である。
そもそも中国のような専制政治は、民主主義による政治体制を前提とする市場経済とは相容れないものと思われている。しかし、これまでの35年間、中国は年平均10%に近い高成長を遂げてきた。その理由について合理的な説明はなされていない。
ほとんどの経済学者は中国経済を目の前にして、どのように描写すればいいのか分からず、まともな絵を描けないままでいる。既存の経済理論を忘れ去って、中国の経済成長の現実を追認しようとする論者も現れている。今まで成長できたのであるからこれからも成長していくであろうと指摘する人もいる。
専制政治によって済成長のサステナビリティが維持されれば、それは奇跡としか言いようがない。中国経済は謎であり、幻でもある。それが内包する種々の問題はすでに明らかになっているが、経済学者はそれに対する処方箋を書けない。これはまさに「経済学の限界」というものであろう。