スイスはスキーシーズン真最中。国内外から、たくさんのスキーヤーが訪れて毎日賑わっている。そのスイスに、スキー好きはもちろん、スキーをしない人でさえ知っている、とても有名な国産スキー板がある。非常に高価な「zai(ザイ)」というブランドだ。

 木の芯に圧縮したフェルトを組み合わせて作ったり、地元アルプスで採れる5千万年以上前の片麻岩(へんまがん)を芯に使ったり、アッパーエッジ部にステンレスを用いたり。通常、スキー板には採用しない材料をあえて取り入れながら、何年も使える美しい板を製造する。

スイス東部のディゼンティス駅。チューリヒから国鉄に乗り、この赤い私鉄「レーティッシュバーン」に乗り換えた終着駅。ザイは、このすぐ裏にある(筆者撮影、特記以外も同様)

 現在のところ、安いものでも1台3300スイスフラン(約42万円、1スイスフラン127円換算)、一番高いものだと9800スイスフラン(約125万円)。

 ザイは、すでに来シーズン向けの新しいモデルを完成させている。今月初め、世界のスポーツ業者が集うミュンヘンのISPO(スポーツ用品の国際見本市。世界最大級ともいわれる)で発表してきたばかり。

 ミュンヘンから戻って一息ついた設立者シモン・ジャコメット(Simon Jacomet)氏に会いに、雪深い村を訪ねた。

圧縮フェルト、片麻岩、天然ゴム・・・新素材への尽きない探求心

 人口2千人余りのディゼンティス村。ザイは、駅の裏手に工房を構える。2003年に設立した。

 「以前は、展示会に出展するとすごく奇妙な目で見られましたよ。こんな材料で、一体どうやって作っているのかって。でも、今回のミュンヘンのISPOでも、本当にたくさんの人が興味津々で見に来てくれました。最近は、そういう反応ばかりですね」

 ジャコメット氏は静かに語る。ウォルナット(クルミ材)やヒマラヤスギといった木材のほか、フェルト、片麻岩、天然ゴム、ステンレス、カーボンファイバー、zaiíra®(ザイが独自に開発したカーボンファイバー)、ポリエチレン繊維など、あらゆる材料を用いる。ジャコメット氏の素材への探究心は、終わりがない。

 「自分でも、何が材料として使えるか予想がつかないですね。たとえば、今シーズン仲間入りしたばかりのフェルト製「scadin」ですが、あるときインターネットでフェルトについて情報を読んだのです。

 それで、フェルトはスキーの材料として使えないだろうかとふと思いました。さっそく試してみたら、うまくいきそうだったのです。それで、木を芯にしてフェルトやほかの材料も使ってみたら、僕たち独自のものができると思いました」

scadinはフェルトを圧縮して作った。芯は木製。先頭のロゴには圧縮前のフェルトを張り、遊び心を出している。数年の研究を経て完成した。ロゴの色は青、緑、赤の3色。1台3300フラン/約42万円(写真提供:zai AG)