芸術論よりも資金調達

映画『インセプション』、3週連続首位

レオナルド・ディカブリオさんと渡辺謙さんのダブル主演で話題を呼んだSFアクション映画『インセプション』のクリストファー・ノーラン監督も2デイ・フィルムスクールの

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 もちろん、ほんの395ドルのセミナーを2日間受講しただけで、誰もが映画監督として成功できるわけではない。

 それでも「2デイ・フィルムスクール」を多くの映画関係者が絶賛する。それは、その講義内容が驚くほど実践的だからである。

 まず、シモンズは生徒を前にして「最初からハリウッドの大作映画を作ろうなどと考えるな」と訓示する。

 初めに低予算映画を製作し、それをヒットさせてから大作映画に進むのが正しい道筋だというのだ。講義の大半は、新人の映画製作者でも実現可能な低予算映画の作り方に関する説明に費やされる。

USC映画芸術学部に新施設、落成式にスピルバーグ&ルーカスが出席

世界的なヒットを飛ばし続ける2人も、低予算映画からキャリアを積み上げていった (左=ジョージ・ルーカス監督 右=スティーブン・スピルバーグ監督)〔AFPBB News

 決して生徒たちの夢を否定しているわけではない。タランティーノのみならず、世界的なヒットを飛ばし続けているスティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスも、最初は低予算映画で頭角を現し、それを足がかりにヒットメーカーへの道を切り拓いていった。シモンズの講義は、まさに王道を行くものなのだ。

 UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、USC(南カリフォルニア大学)など名門大学の映画学科では、もっぱらメジャーな映画を題材に授業が進められることが多い。競争率100倍以上と噂されるほどの狭き門で、4年間で1000万円以上の学費に加えて、実習での製作費も必要となる。しかし、そこを卒業したからといって、すぐに商業映画の製作ができるわけではない。

 しかも大学では、映画の構造などに関する芸術論やカメラワークなどの技術論などに多くの時間を費やすのが常だ。

 これに対し、「2デイ・フィルムスクール」では芸術論などすっとばし、「何をするのにいくら必要か」「そのために、誰と交渉してどんな契約書を作成する必要があるか」など、極めて、実務的な話に焦点を絞り込んでいる。だからこそ、2日間にあらゆるノウハウを詰め込むことができたのだ。

【1日目 脚本作成、監督、撮影、および編集】

フレッシュマン・イヤー(土曜日 9AM-1PM)
・アイデアを考える
・脚本をプロデュースする
・撮影費用を計算する
・スケジュールの立て方
・撮影の準備をする
・ハリウッド・システムについて
・低予算の映画制作
・脚本家を雇う
・協会や組合について
・タレント(出演者)をキャスティングする
・クルー(スタッフ)を確保する
・撮影機材をレンタルする
・フィルムを購入する
・テープを買う
・3週間の撮影計画
・契約書や合意書について
・カメラ、照明、音響機材
・ボーナス講義: 脚本の書き方

2回生(土曜 2PM-6PM)
・撮影スタッフを雇う
・撮影と照明
・監督の仕方
・俳優をキャスティングする
・有名人キャストの確保(は現実的ではない)
・予算のトリック
・撮影スケジュールを立てる
・1日20~30シーンを撮影
・キー、バック、フィルの各ライティング(照明の仕方)
・演技を指示する
・スタッフに指示する
・ストーリーボードを作る
・ADR、フォーリー、M&E(音響の仕方)
・撮影後の作業を指示する
・サウンド編集者
・音楽 / スコア
・映画を仕上げる
・ボーナス講義: デジタル映画制作の仕方

【2日目 プロデュース、ファイナンス、配給、および利益】

3回生(日曜 9AM-1PM)
・パブリシスト(広報)を雇う
・ヴァラエティー誌、リポーター誌(業界紙)への告知
・映画祭に参加する
・カンヌとサンダンス(映画祭)
・マーケティングですべきこと、すべきでないこと
・主要な映画祭について
・配給会社にアピールする
・エージェント(代理人)を確保する
・買い付け担当者と商談する
・ウワサを広める
・契約条件を交渉する
・売り上げを最大にする
・フィルム見本市に参加する
・海外での販売
・ビデオ、ケーブルの取引
・ネットvsグロスの取引
・補助的な取引
・ボーナス講義: スタジオ(映画会社)との取引の仕方

4回生(日曜 2PM-6PM)
・製作資金を集める
・製作費100万ドルの長編映画
・ノーバジェット(予算ゼロに近い)長編映画
・製作費5000ドルの長編映画
・製作費1000万ドルの長編映画
・製作会社を設立する
・パッケージング(出演者と企画を合わせて提供する)エージェント
・プリセール(配給権前売り)の資金調達
・銀行ローンの確保
・ギャップ(不足資金を穴埋めする)ファイナンシング
・プロダクトプレースメントの収入
・利益を保証する
・投資家からの資金調達
・何を提案すべきか?
・50対50ネット取引
・プレイ・オア・ペイ(撮影中止でもギャラを保証する)取引
・ネットvsグロス取引
・完成保証
・ボーナス講義: インディペンデント映画の資金調達の仕方