「いつかは、自分で映画を撮ってみたい」──熱烈な映画ファンなら、一度や二度はそんな妄想を抱いたことがあるのではないだろうか。
しかし、熱烈な映画ファンなら、監督やプロデューサーになることが、いかに大変なことかもよく分かる。仮に大学や専門学校で映画や映像について学び、運よく映画会社に就職できたところで、誰もが「監督」になれるわけではない。ましてや、全米の興行成績ランキングに名を連ねるハリウッド映画を作るなど、「はるか銀河系の彼方」のような遠いところの出来事のように思えるかもしれない。
でも、たった2日で、その「妄想」を「現実」にできる──と豪語する、映画人材の育成のプロが存在するのだ。(文中敬称略)
タランティーノ監督も大絶賛
その人物の名はダブ・シモンズ(67歳)。
シモンズ自身熱烈な映画ファンであり、「いつか映画を撮ってみたい」という夢を自力でかなえたものの、監督やプロデューサーとして世間から賞賛を浴びることはなかった。しかし、その後も、映画の世界は去りがたく、低予算映画のスタッフとして働き続けた。
そうした経験をもとに、映画製作のノウハウを2日間に凝縮したセミナー「2デイ・フィルムスクール」を考案。1989年から本格的に講演活動をスタートし、アメリカ国内はもちろん、トロント、ロンドン、シンガポールなど世界の主要都市も含めて、年に30~40カ所でセミナーを開催している。
2010年現在の受講料は395ドル(3万3575円、1ドル=85円換算で計算)。毎回100~400人の生徒が集まり、年間の総動員数は5000人に上る。(ちなみに、1回のセミナーでの講師料は1万2000ドル=102万円)。
実は、『キル・ビル』(2003)、『イングロリアス・バスターズ』(2009)など、個性的な作風で知られるクエンティン・タランティーノ監督も、「2デイ・フィルムスクール」の卒業生の1人だ。
タランティーノが「2デイ・フィルムスクール」を受講したのは1990年。そこでインスピレーションを得て完成させた初監督作品『レザボア・ドッグス』(1991)は、低予算映画ながら高い評価を獲得。タランティーノは監督第2作(脚本も担当)の『パルプ・フィクション』(1994)で、カンヌ映画祭のパルムドールとアカデミー賞脚本賞を受賞し、一挙に、その名を世界に知らしめた。
タランティーノは、「なぜ4年もかけて映画学校へ行く必要があるのか? 僕にはダブの2デイ・フィルムスクールがあった」と推薦コメントを寄せている。
他にも『幸せのちから』(2009)の製作・主演のウィル・スミス、『シャーロック・ホームズ』(2009)監督のガイ・リッチー、『ダーク・ナイト』(2008)『インセプション』(2010)の監督・脚本・製作のクリストファー・ノーランら、錚々たる面々が、過去に「2デイ・フィルムスクール」を受講している。シモンズによれば、スクールの卒業生が稼いだ興行収入を全部合わせると110億ドル(9350億円)を超えるそうだ。