それはルーマニア人の女性だった。子供を連れて、ドイツのライプツィヒ市に引っ越してきた。
児童保護の見地から、EU市民(2国間協定により、スイス、トルコ、アルジェリアの国民も)は、EU内ではいつでもどこでも滞在国で児童手当を受けることができる。ルーマニアはEU加盟国なので、この女性も例にもれず、最初の日の分から、ドイツの児童手当(月184ユーロ)と子供の養育費(月133ユーロ)を支給された。
しかし彼女は、それだけでは足りないと思ったらしく、職業センターに生活保護を申請した。ドイツの生活保護は、2005年より、失業者に対する失業手当と、貧困者に対する生活保護が一括にまとめられている。申請者は、職業センターに行き、職を探している旨を届けなければならない。つまり、働く意志のあることが条件だ。
しかし、職業センターによれば、そのルーマニアの女性は、就職口を探していなかった。ルーマニアでも一度も働いたことがなく(つまり、失業保険を払い込んだことがなく)、また、これからドイツで働くつもりもなかった。
そこで、職業センターはこの女性の申請を受け付けなかった。すると、彼女はそれが差別であるとして、社会裁判所(社会保険・失業保険などの係争事件を扱う地方裁判所)に訴えたのだった。
裁判所は、職業センターの対応を是とし、それをルクセンブルクのEU(欧州連合)司法裁判所に上げて、その意見を求めた。
EU裁は、ドイツの社会裁判所の判断を全面的に支持した。「ドイツは、社会保障を受けることだけが目的のEU外国人に対して、社会保障費の交付を拒否することができる」という判を下した。
ここで日本人に注目してほしいのは、現在、EUの加盟国は、多くの案件を国内法だけで決められなくなっているということだ。EU裁の判決が、各国の国内法よりも高位に位置づけられている。今、進みつつあるTPPは、いずれ日本にもこういう状況をもたらすに違いないと思う。
手厚いドイツの児童手当
さて、現在、EU外国人のうち、誰がドイツで生活保護を受けられるかというと、ドイツで働いていた人のみだ。
また、今も働いているが、収入が低くて、最低の生活を営むことができない場合、あるいは、3歳以下の子供がいて、働くに働けない場合も受けることができる。支給額は、過去に働いていた年数(=過去に失業保険を支払った年数)で違ってくるが、扶養家族の無い場合、1人月300ユーロ弱。