今年84歳になるクリント・イーストウッドの監督最新作『ジャージー・ボーイズ』(2014)が先週末から劇場公開されている。

 ニュージャージー出身のイタリア系米国人4人組フォー・シーズンズが味わった栄光と挫折を、ヒット曲満載で描くこの作品は、ブロードウェイで9年間続き、今も上演中の大ヒットミュージカルの映画化。

イーストウッドならではの音楽への思い

ジャージー・ボーイズ

 自ら映画音楽を書くこともあり、『バード』(1988)では名サックス奏者チャーリー・パーカーの生涯を描き、『センチメンタル・アドベンチャー』(1982)ではカントリー歌手を演じたイーストウッドならではの音楽への思いが感じられる。

 俳優たちが、主流となっている事前録音と口パクではなく、カメラの前で実際に歌い演じていることも、曲に生き生きした印象を与えている。

 ニューヨークとフィラデルフィアという2つの大都市圏を抱え込むニュージャージー州は人口密度が高く、民族も宗教も多彩。イタリア系移民も多く住む。

 米国は多様な出自からなる移民国家だが、19世紀中頃をピークとしてやって来た欧州北部からの「旧移民」に比べ、遅れてやって来た「新移民」と呼ばれる南欧、東欧、ユダヤ人などの境遇は、主流たるWASP(白人、アングロサクソン、プロテスタント信者)ではない者が多いこともあり、厳しいものだった。

フォー・シーズンズ

 この映画でも、イタリア系である主人公の1人が、現況を脱するには、軍隊、ギャングといった死のリスクさえあるものになるか、有名になるしかない、と現実の厳しさを語る。

 しかし、1960年代のバンドにありがちな「不良」イメージのないグループだけに、冒頭描かれる犯罪に手を染める無名時代の姿は意外に映る。

 そんな彼らが、音楽への夢を追い続け、やがて、1962年10月の「Sherry(シェリー)」に始まり、「Big girls don’t cry(恋はやせがまん)」「Walks like a man(恋のハリキリ・ボーイ)」とナンバーワンヒットを連発する人気グループへと上り詰めていく姿を、映画は描いていく。

 レコードセールス累計が1億枚を超える彼らのヒット曲が次々と聞けるのは実に楽しい。