「逆オイルショックが再び起きるかもしれない」

 専門家の間で「近い将来石油需要が減少に転じ、石油価格が1980年代半ばのように暴落する可能性がある」との見方が密かに広がっている。

 「逆オイルショック」は日本ではあまり知られていないが、86年初頭に1バレル当たり30ドル近い水準にあった石油価格が、その後半年間で5ドルにまで暴落したことを言う。なぜこのようなことが起きたのか。

 70年代の2度にわたる石油危機を契機に石油価格が高騰したため、80年代に入ると石油消費国における代替エネルギー(原子力が中心)導入拡大や省エネルギー推進により世界の石油需要が低迷し始め、83年の需要は79年の1割減となった。さらに、中東の大産油地域から締め出された石油メジャーが非OPEC地域の石油生産量を急増させ、低迷する需要をOPEC産原油と奪い合うようになった。

 このような事態に直面しても、OPEC諸国は協調して減産を行うことができず、結果的にサウジアラビア一国が減産を引き受けざるを得なかった。80年のサウジアラビアの生産量は日量1000万バレルであったが、85年には200万バレルにまで激減、OPEC石油の世界市場に占めるシェアも30%を割り込んだ。

 サウジアラビアは、事ここに至っても減産に協力しない他のOPEC諸国に痺れを切らし、85年12月に「これ以上減産に耐えることはできない。調整弁役を放棄して増産を開始する」と宣言したため、高止まりしていた石油価格は瞬く間に下落した。

 当時、中東地域では80年9月にイラン・イラク戦争が勃発し、87年7月にはペルシャ湾に大量の機雷が浮遊する状態になった。ペルシャ湾を通過するタンカーが276隻も攻撃されたが、86年以降、石油価格は高騰することなく、1999年まで20ドル前後で推移した(湾岸戦争前後を除く)。

価格高騰の石油より石炭の需要が伸びている

 石井彰エネルギー・環境問題研究所代表は、「現在の100ドル/バレルの実質価格(インフレ調整後の価格)は、後に石油価格暴落を招いた80年代初めの価格水準と同等である」と指摘する。石油価格は21世紀に入りイラク戦争後に急上昇、2008年7月に147ドルのピークを迎えたが、リーマン・ショックで反転、2009年3月に33ドルまで下落した。しかし、その後短期間で価格が再上昇し、2011年から100ドルを超える石油価格が3年にわたって持続している(7月以降下落傾向にあった原油価格は9月に入ると100ドル割れが生じている)。