日本のメディアでは、8月15日前後に戦争に関するテーマが数多く取り上げられるのが年中行事のようになっている。とりわけ今年は、安倍政権による集団的自衛権容認方針が打ち出されたためか、「日本は戦争をする国になってはならない」「日本が戦争をする国になるのが心配」といった類の表現をメディアやいわゆる識者が多用するようになっている。その影響と思われるが、一般の人々のインタビューでも「戦争をする国」という言葉を多く耳にする(もっとも、そのような回答をピックアップしてメディアが流している結果とも言えようが)。

ソフトパワーの戦争も立派な戦争

 「戦争をする国」という表現の意味する内容は、はなはだ不鮮明である。おそらくは、戦争を単純に侵略戦争とのみ考えてしまい、日本が自ら進んで侵略戦争を開始することだけが「戦争をする」ことと思い違いをしているようである。「戦争をする国」と口にする人々は、他の国が日本に戦争を仕掛けてきた場合には、どう対処すべきだと考えているのであろうか。

 また、「戦争をする国」と口にする人々は、戦争を戦闘や軍事衝突と混同してしまっており、そのような軍事力を剥き出しに使うハードパワーの戦争以外にも、外交的文化的手段を駆使したソフトパワーの戦争も立派な戦争であることに気がついていないようである。

 現在も世界各地で繰り広げられているハードパワーの戦争、また現に日本に対しても実施されているソフトパワーの戦争、それに日本をターゲットの1つとして着々とハードパワーの戦争準備を推し進めている国家の実情などを理解すれば、他人事のように「戦争をする国」などという言葉を口にすることはできなくなるであろう。

日本に「三戦」を仕掛けている中国

 中国人民解放軍が軍事力を直接行使する戦争以外にも国際的政治工作活動である「三戦」を実施していることは、日本でも認識されている。

 三戦とは、国際世論を中国にとって好ましい方向へ導く「輿論(よろん)戦」、敵側軍人の士気や国民の結束を低下させる「心理戦」、それに国際法秩序を活用して中国に有利な国際環境をつくり出す「法律戦」の3つのカテゴリーの政治工作を意味している。

 中国はハードパワーの戦争に備えるための急激な軍備拡張と並行して、ソフトパワーの戦争であるこれらの三戦をも着実に実施しており、とりわけ中国にとっては“目の上のたんこぶ”である日本と日米同盟に対する輿論戦や心理戦には着実な成果を上げている。その成果の1つが、昨今日本に氾濫している「戦争をする国」という表現と考えられる。