グルジアは小さな国である。しかし、この小国を研究していると、時には思いがけない広がりを持つテーマにぶつかることがある。
今日2010年8月6日は、65回目の原爆忌である。今年は駐日米国大使も初めて慰霊祭に参加、1つの節目になると言えよう。
筆者は先頃、グルジアの詩を訳す機会があったのだが、その過程でいくつかのこれまでの個人的記憶がつながり、改めて人類史上最大の災禍について感じるところがあった。
折しも映画『キャタピラー』の主題歌「死んだ女の子(Dead Girl)」が(再び)話題になっている。まさにその原詩を記したナズム・ヒクメト(ヒクメット)・ランの名前に、ふとしたきっかけで出合ったのである。
最近でもトルコ首相の妻が朗読
最近、グルジアで女流詩人として知られるニノ・ダルバイセリさんの協力を得て、20世紀グルジアが生んだ最大の国民的詩人ガラクティオン・タビゼの詩を翻訳した。
これは、タビゼの研究者としても著名なダルバイセリさんが、タビゼの詩の中に日本人作家の作品にインスピレーションを受けて記された作品があることを知り、筆者に翻訳を勧めたものである。
今から82年前の1928年、昭和で言えば3年目に、ソ連で編まれていたロシア語の雑誌「外国文学」にフサオ・ハヤシの「月の語ったこと」が掲載された。これを読んだガラクティオン・タビゼは、それからちょうど10年後、同名のグルジア語の詩を記したのであった。
林房雄は三島由紀夫に縁の深い人物で、『大東亜戦争肯定論』でも知られる。ところが、実はその経歴の初めではマルクス主義の作家として出発しており(後に転向)、そのためにソ連が出していた「外国文学」に作品が掲載されたと考えられる。
作品そのものについては別稿(大阪大学地政学的研究プロジェクト報告集収録予定)を参照されたいが、ソ連における共産主義の勝利を讃えるものである。
同じ号で林房雄に続いて掲載されていたのが、ナズム・ヒクメト(ヒクメット)の「アナトリアのロマンチシズム」という作品であった。