東京・日本橋の三井記念美術館では、7月13日まで、特別展「超絶技巧! 明治工芸の粋 ─村田コレクション一挙公開─ 」を開催している。

 京都・清水三年坂美術館館長の村田理如(まさゆき)さんが、長い年月をかけて収集した明治の工芸品のうち、優品約160点を選んで紹介するものだ。

 象牙で本物そっくりに彫られた野菜や果物、金工でこまやかに表現された動植物、絢爛たる七宝や蒔絵、そして写実的な絵画を織物の上に表現する刺繍絵画など、いずれも目を見張らざるをえない精緻な造形ばかり。まさに「超絶」と呼ぶにふさわしい技巧が凝らされている、

 コレクションを築き上げた村田氏は、電子部品メーカーの大手、村田製作所の創業者一族の出身。自身も長らく会社の経営に携わっていた。しかし47歳で会社を去り、明治工芸のコレクションに邁進する。生涯を懸ける意味があると思わせた、明治工芸の魅力とは何か。ご本人に語ってもらった。

出合いはニューヨークの美術商

牙彫師・安藤緑山の作品「竹の子、梅」の前に立つ村田理如さん。村田さんは1950年京都府生まれ。47歳で当時、専務を務めていた村田製作所を辞職。明治工芸の収集に尽力し、2000年に清水三年坂美術館を開設。この作品の本物そっくりの竹の子と梅は、象牙で作られている。

──明治の工芸との出合いを教えてください。

村田理如氏(以下、敬称略) 私はもともとヨーロッパの陶磁器やガラス器を集めていたんです。細密な技巧を施されたものが好きなので、ドイツやオーストリアで作られていた絵付け磁器や、フランスのガラス工芸家エミール・ガレの作品などが、収集の対象でした。

 1980年代の終わりに、磁器を探すために、ニューヨークで古美術商が集まるビルに立ち寄ったところ、ある店のショーウインドーに並ぶ明治の印籠が目に留まりました。そこは「オリエンテーションズ・ギャラリー」という、目利きで知られる方の店だったんですが、その時は、まだ知りませんでした。

 店内に入ると、そこにあるのは七宝、金工、蒔絵など、美しいものばかり。これはぜひとも自分で集めてみたいと思ったんです。まずは印籠や蒔絵から始まり、徐々に七宝、金工、木彫などへ広がっていきました。