「中国軍事力は透明性を欠くとともに、ますます覇権主義的行動が顕著になっている。その侵略的強化を私は憂慮している。・・・係争中の海域での中国側による一方的な行動は極めて危険極まりない。・・・そもそも、中国による領海や島嶼に対する主権の主張は国際法に照らして根拠があるとは言えない」

 4月9日、オーストラリア・キャンベラのオーストラリア戦略政策研究所での会合の席上、アメリカ太平洋艦隊司令官ハリス大将は、中国の軍事力とりわけ充実の速度が著しい中国海洋戦力と覇権主義的海洋戦略に対して、強い口調で懸念を表明した。

公の場で太平洋艦隊司令官が中国侵略主義を批判

 東シナ海・南シナ海を含む東アジア戦域の地政学的情勢に精通しているハリス大将は、太平洋艦隊司令官就任後もしばしば中国軍事力に対する懸念を表明していた。

 先日、筆者がファネル大佐(「『中国軍が対日戦争準備』情報の真偽は? 足並み揃わない最前線とペンタゴン」を参照)と共にハリス大将と雑談した際にも、ハリス大将は中国海軍警戒論を口にしていた。

 今回は公の場で、中国による東シナ海上空への防空識別圏(ADIZ)設定や、日本やフィリピンそしてベトナムなどに対する島嶼領有権を巡る強硬行動などを、(ブリスベン・タイムズの表現を借りると)“いつになく激しい口調で”非難したのである。

 もちろんハリス大将による中国脅威論は、なにも自身が日系人であり個人的にも日本に対して好感を持っているという私的感情に基づいているわけではなく、海軍情報部や軍情報機関それにシンクタンクの諜報や情報ならびに専門的分析などを総合しての軍人、それもアジア太平洋戦域のアメリカ海軍実働部隊のトップとしての、プロフェッショナルな知見と判断に基づいたものである。

アメリカ海軍が憂慮する中国潜水艦戦力

 ハリス大将は中国海洋戦略に対する懸念の表明と共に、太平洋とインド洋におけるアメリカ海軍のプレゼンス継続の必要性を強調した。そして、オーストラリアは潜水艦戦力への投資を充実させるべきであると要求した。

 この提言は、アメリカ海軍関係者による中国海軍に対する危機感の根底には「潜水艦」がかなりの比重を占めているという事情がある。