2 公海およびその上空における航行の自由
1919年の航空の航法の規定化のためのパリ会議(the Paris Convention on Aerial Navigation of October 13, 1919)において、領土上空の主権を認めると同時にそれ以外の公海上空の自由(Caelum Liberam: freedom of the sky)の原則が確認された。
この原則は、1944年に国際民間航空会議(Convention on International Civil Aviation)のシカゴ会議に引き継がれ、民間航空機の運航に関する国際条約として1947年に発効して今日に至っている。シカゴ会議は、「民間航空機」と「国の航空機」を区分しており、民間航空機の行動を規制する内容となっている。
「国の航空機」とは、軍、税関、警察などの国家機関の航空機をいう。軍用機が他国の主権の及ぶ空域を飛行するには特別の許可を必要とすることが1919年のパリ会議において確認されており、シカゴ会議においては、国の航空機は、他の航空機の飛行の安全に配慮しなければならないとされている。
また、1998年の国際民間航空機関(ICAO: International Civil Aviation Organization)の会議において、国の航空機が飛行中の民間航空機を要撃(Interception)する際には、武器の使用を禁止すること、民間航空機に搭乗している人員の生命や安全に危害を加えてはならないこととされた。
米海軍大学のピーター・ダットン教授の論文によれば、1982年に国連海洋法条約(UNCLOS: United Nations Convention on the Law of the Sea)が締結された以降は、ブラジルなどいくつかの国が排他的経済水域(EEZ)およびその上空における軍の行動には沿岸国の許可が必要だと主張したが、同条約の法的委員会はICAOのシカゴ会議の結論である公海上の空域における航法の自由の原則を引用してこの意見を排除した。
国連海洋法条約締結国のうち、159か国は、米国と同様にEEZおよびその上空における航行の自由を認めている。
1992年には、13か国(アルゼンチン、ベニン、ブラジル、コンゴ共和国、エクアドル、エルサルバドル、リベリア、ニカラグア、パナマ、ペルー、シエラレオネ、ソマリア、ウルグアイ)が200カイリのEEZ内での領海主権を国内法に規定しており、その後2008年までに7か国(ベニン、コンゴ共和国、エクアドル、リベリア、ニカラグア、ペルー、ソマリア)が依然200カイリの領海主権を掲げており、ブラジルなどその他の国は、同条約締結以降に12カイリの領海主権に修正している。
これら7か国のうち、エクアドルとペルーを除く5か国は同条約の締結国であり、実質的に12カイリの領海主権を認めている。ブラジルは、EEZ内での無許可の軍事演習や軍の活動を禁じており、この他、バングラデシュ、ミャンマー、中国、インド、イラン、マレーシア、北朝鮮、パキスタン、ウルグアイの9か国がEEZ内における軍の活動を規制する権限を主張している。
さらに、ケープベルデ、ケニヤ、モルディブ、モーリシャス、ポルトガルの5か国は、その権限を法律化しているか、または主張している。ガイアナは、EEZ上空の他国の航空機の活動を規制する領空主権を主張している。