一般に平時の海軍には「見せるべき」部分と「見せてはいけない」部分がある。前者の典型はいわゆる「砲艦外交」であり、後者の代表例としては例えば原子力潜水艦の「隠密行動」などがある。
人権や人民元などを巡る米中のせめぎ合いについては、これまで何度かご紹介してきたが、実は海軍の世界でも米中が日夜しのぎを削っていることはあまり知られていない。今回は、この見えそうで見えない海上・海中の米中関係について書いてみよう。
活発化・大型化する中国海軍の動き
最近、内外のマスコミでは中国海軍の動きに関する報道が目立つ。当然ながら米海軍や海上自衛隊関係者は懸念を隠さない。5月1日に訪中した仙谷由人・国家戦略担当相(現官房長官)も中国側要人に「日本で懸念の声が上がっている」と伝えている。
本(2010)年4月8日、東シナ海で中国艦隊を監視中の海上自衛隊護衛艦に中国海軍の艦載ヘリコプターが異常接近を試みた。日本政府は外交ルートを通じ中国側に申し入れを行ったが、同様の事件は同月21日にも沖縄本島沖で発生している。
仙谷大臣の発言はかかる事実を踏まえたものだ。しかも、これだけではない。最近中国海軍(人民解放軍海軍)は日本近海で示威活動を活発化させている。
防衛白書などによれば、21世紀に入ってから次のような動きがあったようだ。
●2003年11月 中国海軍ミン級潜水艦が大隈海峡を浮上航行
●2004年11月 中国原子力潜水艦が沖縄近海の日本領海内を潜没航行
●2006年10月 中国ソン級潜水艦が沖縄近海で米空母の近傍に浮上
●2008年10月 中国ミサイル駆逐艦など計4隻の艦隊が津軽海峡を通過して太平洋に抜け、その後太平洋を南下して沖縄本島と宮古島の間を通過
●2008年11月 別の中国駆逐艦等4隻が沖縄本島と宮古島の間を抜け太平洋に進出
●2010年4月 中国ミサイル駆逐艦2隻、フリゲート艦3隻、潜水艦2隻、補給艦1隻など計10隻の艦隊が東シナ海から太平洋に抜ける海域で大規模な訓練を長期間実施
中国側の言い分
日米が懸念を深める理由は説明するまでもなかろう。ここでは、本コラムにしては珍しく中国側の弁護を試みることにより、これら活動の妥当性を可能な限り客観的に検証してみたい。
まず、大隈海峡と津軽海峡の通過だが、両海峡は特定海峡(国連海洋法条約に定める国際海峡)であり、軍用艦船を含む外国船舶の自由通航は認められる。沖縄本島と宮古島間の通過も、公海上である限り、中国側に国際法上の非はない。