11月25日、中国は日本側と重複する防空識別圏の設定という危険かつ挑戦的な措置を一方的に取った。その背後には、南北朝鮮の軍事力バランスの変化および南北朝鮮と米中との関係の流動化がある。南北朝鮮間の軍事力バランスの現況とそれに対する米中の対応を探る。
1 最新の『ミリタリーバランス』に見る南北朝鮮の軍事力バランス
南北朝鮮のここ20年来の軍事力推移から見れば、北朝鮮軍と韓国軍は、陸海空戦力とも、能力格差はますます拡大しており、正規軍による正面からの戦いでは北朝鮮軍の勝利の見込みは、ほぼないと言ってよい。
唯一、北朝鮮にとって勝利の可能性があるのは、特殊部隊、ミサイル、サイバーなどを併用した、短期の奇襲的な非対称の戦いであろう。
このような南北間の戦力整備の趨勢は、『ミリタリーバランス』の2011年版と2012年版を比較しても明らかである。
北朝鮮軍の編成装備では、陸海軍ではほとんど変化がない。唯一、空軍の中国製の主力戦闘機「J-5」「J-6」「J-7」が327機から441機に、114機も急増しているが、いずれも「MiG-17」「19」「21」をモデルにした旧式機である。「AN-2」をまねた小型輸送機の「Y-5」は、250機から200機に削減された。
大型輸送機の「Tu-204-300」が1機増加している。ミサイルや特殊部隊の配備戦力にも変化はないと見積もられている。
他方の韓国軍は、編成や総兵力に大きな変化はないが、陸軍ではスティンガーが130基から約200基に急増し、輸送ヘリも189機から222機に増加している。韓国海軍も、ヘリとミサイルを搭載する巡洋艦を昨年に続き新たに1隻配備し、計2隻になった。
空軍は、「F-5」対地攻撃機が233機から176機に削減される半面、「F-16」主体の主力戦闘機が234機から286機と52機も増加しており、着実に近代化が進んでいる。陸軍の輸送ヘリが急増した反面、空軍の輸送ヘリは56機から49機に減少しているが、3軍のヘリの総数は増加している。
以上が、南北朝鮮の軍事力のここ1年の主な変化であるが、韓国軍は、陸海空軍とも兵器の国産化を進めるとともに米軍の最新装備を導入し、近代化を進めている。2012年版『ミリタリーバランス』によれば、韓国は2010年に年間6億ドル相当の武器移転を受けており、その大半は米国と見られる。
他方の北朝鮮は、中国製の旧式戦闘機を大量に配備し、ロシア製の大型輸送機を1機導入しているものの、装備の大幅な近代化が進んでいるとは言えない。
主力戦闘機におけるJ-5などの中国製旧式戦闘機の急増は、韓国軍のF-16主力戦闘機の量的増加と質的向上に対抗するための措置と見られるが、これらの旧式機はF-16と正面から交戦する戦力としては期待できないであろう。
ただし、北朝鮮軍か開戦当初に、奇襲的な火力を米韓側に集中する際に、休戦ライン沿いの火砲、ロケット弾では届かない遠隔地の目標に対する先制攻撃に、これらの戦闘機を使用できると見られ、非対称戦の戦力としてはある程度期待できよう。
他方、小型輸送機のY-5は空軍の特殊部隊2コ狙撃旅団の後方浸透用と見られているが、一部が地上配備に回されていると見られる。
北朝鮮は、J-5などの機体を国内で生産する能力を持っていると見られるが、これだけの機数が1年で急増するとすれば、中国軍機の更新に伴い旧型機が北朝鮮に大量供与された可能性もある。