「一企業が1つの学校から1800人もの学生を採用する」「就職採用の合格者がたった1日で決まる」

 日本ではあまり考えられないこのような採用が、実際にインドで行われているという。

 企業のグローバル化が進む中で、今後ますますグローバル人材のニーズは高まってくる。これから進出が見込まれる地域において、現地採用を行う機会も増えてくるはずだ。その中で、上記のような「採用慣習の違い」に出くわすことも多くなるのではないだろうか。

 そこで重要になるのが人事担当者だ。リクルートワークス研究所の村田弘美氏は、「人事担当が各国の採用事情やキャリアへの考え方を理解することは、良いグローバル人材を採用する上で大切になる」と語る。

日本企業のグローバル採用の今

 リクルートワークス研究所とは、人材マネジメントやワーキングパーソンについての研究・調査を行う機関。その中で村田氏は、今年4月から新たに立ち上げられたグローバル労働市場研究センターのセンター長を務めている。

 「元々、ワークス研究所では様々な国の採用事情を調査していました。その結果、国ごとに制度や風習が大きく異なることが分かってきたんですね。グローバル化が進む今後は、現地採用をする上で、そのような“異文化”を正しく理解することがますます重要になってきます。そこで今年からグローバル労働市場研究センターを立ち上げ、諸外国の労働市場・採用市場をさらに細かく調査していくことになりました」(村田氏)

 多くの企業がグローバルシフトする中で、現地の採用事情を知ることは必須。同センターでは、日本企業に関連の深い中国やアジア各国を中心に採用事情を調査してきた。そして、日本とは採用活動の実態があまりに違うという事実が浮かび上がってきた。

 「私は昨年インドの調査を担当したのですが、インドは日本とかなり事情が異なります。例えばいまだに残るカースト制度の影響などはその例。また、インドではこの3年ほどでカレッジが1万5000校近く増えました。これは国の方針ですが、もしこの背景を知らずに現地採用を始めると、採用ターゲット校や、その大学やカレッジの構成・レベルを見誤る恐れがあります」(同)

インド高等教育機関の構造と特徴

 

日本とはまったく異なるインドの採用システム

 冒頭で挙げられた驚くべき事柄も、インドの社員採用では当たり前だった。インドでは、企業が大学にプログラムを提供したり、講師を派遣したりして提携に近い形を取っていることが多く、そういったケースでは大半の学生がその企業に就職する。また、採用する企業は、説明会とテスト、面接を情報解禁から1日で行い、一気に採用者を決めてしまう。

インドにおけるエンジニア新卒採用の構造
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 「日本の大手企業ではいろいろな大学から志望者が集まって、説明会からテスト、1次面接、2次面接・・・と段階を踏みます。でもインドでは、1日ですべての採用プロセスを行います。もしその情報を知らないまま日本企業が現地採用を行うと、おそらく1次面接の担当者が現地のキャンパスに行くことが想定されます。いきなり人事の最終決済権を持つ人が行くことはないはずです。そうすると、1人も採用できないという事態に陥りかねません」(同)

 さらに異国での採用においては、制度や風習の違いだけでなく、国民性の違いも大切なポイントとなる。

 「もう1つインドの採用で難しいと思ったのは、日本のように各企業が採用プロセスを公表しないこと。今まで培ってきた採用のノウハウを外部に公表したくない企業が非常に多いです。各企業のノウハウがオープンになり共通化されていく日本とは違い、とてもクローズな国でした。ですから、例えば日本企業が現地採用をしたいと考えた場合、情報を引き出すのにとても苦労していて、地元の会計事務所や弁護士事務所などに頼ることになります」(同)

 とにかく閉鎖的で情報を集めにくいため、すでにインドで採用活動を行っている日本の企業は、「1~2年で成功することはあまりなく、多くの失敗を繰り返しながらノウハウを積み上げている現状」だという。

各国のキャリア意識や教育を知るのも採用の一環

 現地採用を行う上では、その国の教育の在り方を知る必要もあるという。

 「例えばドイツでは、8歳から職業選択を迫られますから、サッカー選手でも職業資格を持っている人が多いです。またアメリカでは、日本に比べて大学で学ぶ内容の専門性が高いのが特徴。例えばアメリカのHR(ヒューマンリソース) 学部やビジネス学部などでは、労働法や労働経済、メンタルヘルスなど人事に必要な一連のカリキュラムを学びます。同学部の出身者を人事職として採用すれば、企業は即戦力として活用しやすいですね。そのような国ごとの教育システムを理解するのも重要です」(同)