採用した人物がどのようなシステムの下で教育を受けてきたか。あるいは、その学歴がどのような意味を持つのか。それを正しく理解することは、“良い採用”に関わるだけでなく、その後の社員の育て方にも通じてくる。

 「現地採用で一番大切なのは定着させること。先進国の人事では、人を採ったところで仕事が終わるのではなく、人が定着するまで責任が問われると考えています。もちろん国内での人事もそうですが、グローバル採用では特にそこが重要とされます。人事の仕事領域は今後広くなるのではないでしょうか」(同)

 様々な国の出身者に対して、彼らの文化や仕事への価値観を汲みながら、採用・定着をさせていく。それがグローバル時代における人事の役目なのかもしれない。

グローバル社員を定着させるために必要なこと

 では、どうやって現地採用した社員を定着させていくべきだろうか。村田氏は、異国における転職事情を理解することが重要だと考える。

 「新興国で社員が自発的に会社を辞める場合、ほとんどはインフレ率と賃金の上昇が関係しています。インフレにより企業間の給料格差が大きくなる中で、社員は『同じ仕事をするならより高いところに移りたい』と考えるのが普通。これが辞める理由の多くを占めています。日本では、辞める理由の多くが仕事との相性や人間関係によるものですが、新興国ではその傾向は見られません。そうした背景を見極めながら、社員の満足度を上げることも大切です」(同)

 また日本では、競業避止の観点からライバル会社への転職はあまり多くない。しかしインドのIT系企業に勤めている人の転職傾向を見ると大手のIT企業5~6社をぐるぐると回るように転職してキャリアを積むことが珍しくないという。そのような考え方の違いも、人事担当に必要な情報となる。

インドIT大手企業を核としたITエンジニアの転職動線
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 「各国の転職事情を知るためには、SNSなどのテクノロジーを駆使することが重要です。今はビジネス用のSNSを見ると、個人の転職導線が顕著に分かります。そのような動向を分析していくと国ごとの傾向も見えてくるでしょう。採用する際、SNSを活用することで潜在的な求職者へのアプローチが可能になりました。採用前および採用後どちらについても、SNSの使い方はカギを握っています」(同)

日本の採用システムを生かすことも必要

 グローバル採用を行うには、採用の文化やキャリア意識、転職事情など、人事担当が各国の膨大な情報を把握しておく必要がある。つまり、今後グローバル化が進むほど、人事担当者の役目や責務は大きくなるとも言えそうだ。

 「大企業の中には、その国の採用のプロフェッショナルと組んで一緒に採用活動をする動きも出てきています。1社の人事部だけでいろいろな国の採用をすべてまかなうのは現実的には難しいと思います」。グローバル労働市場研究センターでは、世界の最新の雇用情報やリソースをリポートにまとめたり、各企業の人事部に対して講演や勉強会も行っている。村田氏は、そうした情報をぜひ活用してほしいという。

 日本の企業は、今後さらにグローバル採用が過熱していく時期。その工程において、各社に情報提供をしながら「少しでも問題を解消していきたい」と村田氏は語る。

 「一方、日本の採用システムを海外に輸出することも考えていきたいですね。今でこそ少しずつ変わってきましたが、日本は基本的に終身雇用を見越した採用を主体としていて、採用選考は非常に慎重に行われます。対して海外は日本より解雇しやすい文化なので、割と緩く人を採り、成果を重視するケースもあります。どちらが良いということではありませんが、日本のシステムもうまく取り入れながら、ベストの方法を模索していくのが理想です」(同)

 グローバル化が進み、様々な国籍の人を採用する機会は多くなってくる。その中で、いかに現地の風習や文化を取り入れながら、良い人材を採用していくか。併せて、日本が培ってきた良さをどう伝えるか。それがグローバル時代における、企業にとっての重要な課題と言えそうだ。