「東アジア地域において、もはやアメリカ軍は最大勢力ではない」

 先週、ポーツマス(バージニア州)で開催された国防産業協会(NDIA)における講演で、アメリカ太平洋軍司令官ロックレア提督(アメリカ海軍大将)が明言した。

 提督の言う「アメリカ軍」とは、極東方面に展開しているアメリカ海軍・海兵隊、そして空軍、すなわちアメリカ極東海洋戦力を意味している。

 この講演で司令官は、かつては「最大勢力」であったアメリカ極東海洋戦力が、現在は最大勢力ではなくなってしまったため、この方面におけるアメリカ軍の基本的軍事戦略を転換する必要に迫られており、実際に転換中である、という現状をアメリカ防衛産業関係者たちに説明した。

 その中で、今や、北は日本列島・朝鮮半島から南はインドネシア・シンガポールに至るまでの広大な海域における「最大勢力」が中国海洋戦力であることを、この戦域を統括するアメリカ軍のトップが公の場で認めたわけである。

 もちろん提督は一般論的な講演の場で「最大」という表現を用いたのであり、「最大」がただちに「最強」を意味するのかどうか、といった突っ込んだ話をしたわけではない。ただ、中国海洋戦力が少なくとも規模的には最大勢力にのし上がってしまったことは事実である。そのため、アメリカ海洋戦力は、かつて規模も質も最大勢力(すなわち最強)であった時代とは抜本的に異なった戦略に立脚しなければ、東アジア地域でのアメリカの国益を維持することはできない、というのが講演の趣旨であった。

日本を「根城」とする基本戦略は時代遅れに

 ロックレア提督は、そのような新戦略を「戦域拡大戦略」と呼んでいる。

 かつてアメリカ海洋戦力が極東地域で最大・最強であった時期には、日本と韓国、とりわけ日本各地の米軍基地(軍港・航空基地)を根城にして、強力な極東ソ連軍や、弱体ではあるものの危険な中国や北朝鮮に睨みを利かしていれば、アメリカの国益、それに同盟国の安全を確保することはさして困難というわけではなかった。

 しかし、日に日に攻勢的になっている中国海洋戦力に直面している現在、「日本を根城にして睨みを利かしていればよい」といった基本戦略は時代遅れとなってしまった。