中国が南シナ海ならびに尖閣諸島をはじめとする東シナ海、それに沖縄本島~宮古島ラインを突破しての西太平洋に対する積極的(侵攻的)拡張行動を繰り広げている。それに対してアメリカはここのところ財政危機で“世界の警察官”たる余裕がなくなり、鳴りをひそめている。

 10月に予定されていた自衛隊と米軍の日米共同訓練が、アメリカの予算不成立のあおりを受けて中止されるなど、いよいよ日本防衛にも目に見える形でアメリカ財政危機が影響を及ぼすようになってきた。

 本コラムでも繰り返し指摘してきたところであるが、日本としては少しでも自主防衛能力を前進させておかなければならなくなったことは、誰の目から見ても明らかである。

 このような状況下で、陸海空自衛隊が自主防衛の意思を“島嶼奪還”統合演習によって示すとともに、水陸両用戦能力獲得に向けての具体的努力を目に見える形で推進している。これは中国共産党政府にとっては好ましからぬ動きであり、日本はもとより、アメリカや台湾それにフィリピンなどにとっては喜ばしい動きである。

「水陸両用戦能力」の正しい意味

 自衛隊が“島嶼奪還”訓練を実施していることは、確かに自衛隊が水陸両用戦能力を本腰を入れて獲得しようという動きの一環であると見なすことができる。

 また、日本のメディアや一部政治家たちなどが「水陸両用戦能力」という言葉を使い始めてきたことは、「自主防衛能力強化のためにはそれらの軍事能力を構築すべきである」と本コラムで幾度となく指摘してきた筆者やアメリカ海兵隊や海軍の友人たちにとっては喜ばしい進展だと言える。

 だが、メディアや政治家たちが正しく理解してそれらの言葉を使っているのであろうか? という危惧が拭い切れない。

 「水陸両用戦能力」というと、陸上戦闘部隊が上陸用舟艇や水陸両用戦闘車で海岸に上陸する強襲上陸作戦を敢行する能力とイメージされる場合が多い。もちろん、強襲上陸は水陸両用作戦の典型例の1つであるが水陸両用作戦はそれだけではない。実際に、最高水準の水陸両用戦能力を保持しているアメリカ海兵隊・アメリカ海軍が、近年においてその水陸両用戦能力を発揮する主たる任務は非戦闘員救出作戦と災害救援人道支援作戦であり、強襲上陸作戦(実戦)は長らく実施されていない。

 水陸両用作戦能力とは、陸上作戦部隊が海から海と空を経由して陸に到達して陸上で行動し、その陸上作戦部隊を海と空から支援したり補給を継続する、様々な軍事行動を実施する能力を意味している。そのためには、海と空と陸で行動する各種部隊を統合運用する能力が最も重要となる。