週刊NY生活 2013年9月21日459号
日本現代文学の優れた翻訳に贈られる「野間文芸翻訳賞」(主催:講談社、創設1989年)の2013年度の授賞式が16日夜、ジャパン・ソサエティーで行われた。
本年度の受賞作は、作家で劇作家、演出家、翻訳家で、東京工業大学元教授で同世界文明センターの所長も務めたロジャー・パルバースさんが宮沢賢治の詩54篇を英訳した『Strong in the Rain(雨ニモ負ケズ)』。パルバースさんに宮沢作品の魅力について聞いた。(加藤麻美記者、写真も)
「賢治の風を世界に吹かせたい」
▽宮沢賢治との出会いは
1962(昭和37)年に初めて日本に行った時、友人に一番美しい日本語を書いている作家は誰かとたずねたところ賢治を紹介された。当時は京都に住んでいたが、河原町三条の丸善にすっ飛んで行って本を買い、ざしきぼっこ(童子)の話を読んだ。
1ページ読むのに2時間かかったが、まず、その文体、例えば光をひらがなで書く独特な字づら、リズム感、宗教や科学用語を使っている点などにびっくりした。こんな作家は世界にふたりといない。
▽その魅力とは
何よりもその世界観だ。「あなたが幸せになれないとわたしは幸せになれない。一人ひとりの幸せと悲しみが大切」と賢治は考える。
阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、東日本大震災、原発事故と日本は苦難に直面してきた。賢治は作品のなかで直接、悲劇にはふれていないが、大切な人を失ったとき人間がどうやって生きられるかを教えてくれている。
また、「人間は森羅万象の一つに過ぎず、動物や木や森や山や川と同じ。これらを大切にしないと滅びるのは人間だよ」とのメッセージは、現代人にこそ多くのことを伝えている。賢治は19世紀に生まれた21世紀の作家だ。