夏休みや冬休みに入る前など、学期の終わりには、勤めている高校では先生と職員が連れ立って、みなで近くのレストランでランチを食べたりする。学校から200メートルも歩くと運河の近くに出、気持ちのよい風景が広がっている。

 その辺りで食事をすることが多いのだが、数年前にある先生が「この辺は夕方になると、売春する子たちが集まってくるのよ」と教えてくれた。

すぐ近くにあった「売春通り」

 え、まさか。運河沿いの道路を挟んだ反対側は、官庁やオフィスが並んだ普通のビル街で、とてもそんな交渉が行われるような場には見えなかった。

 その辺りの地名はローセンルンドと言って、実は「売春通り」として地元では長いこと有名なのだという。

 その後、その付近を通った時に見ると、寒空にミニスカートをはいた女性が、運河に沿ってゆっくりと行ったり来たりしているのに気がつく。車が徐行してきてその脇に止まり、女性が窓越しにドライバーと何か話している。そんな光景を時々見かけたりもした。

 1998年5月、性的サービスに従事する人々の保護を目的とし、セックスを売ることではなく買うことを禁じた「セックスショップ法」、すなわち「買春禁止法」がスウェーデン議会を通過した。当時、保守派陣営の間では大反対が巻き起こったが、2006年の調査では国民の8割が支持するという結果が出て、以降現在に至るまでほぼ国民的コンセンサスを得ている。

 ノルウェー、アイスランドなど他の欧州国も、スウェーデンにならって同じような法制度を導入している。イングランド、ウェールズ、フィンランド、フランスなど多くの欧州国も性サービスの購入に制限を課したり、議会に法案を提出するなどの動きが継続的に見られる。

 この2013年5月で、スウェーデンの買春禁止法成立から15年が経った。

 この法は適切に機能し、一定の効果を社会に与えているのか? 導入されてから、どの程度の影響を社会にもたらしたのか?

買春禁止法で売春は減ったのか

 スウェーデン政府が2010年に発行した報告書(SOU 2010:49)によると、施行の前年に通りに立つ売春婦、いわゆる「ストリート売春」の人数は国内の3大都市を合わせて726人であったのに対し、施行された1999年には340人と、半数以下に減少している。

 その後わずかに増えたものの、基本的には減少する傾向を見せている。

 この報告書によると、2009年に同様な買春禁止法を導入したノルウェーでも、ベルゲンなどいくつかの自治体ではストリート売春の人数が減少していることが報告されている。同報告書は「買春禁止法は売春と性的目的での人身売買を減少させるために役立っている」と結論している。