先日発表された電力各社の決算発表の一報に接して、驚愕した。膨大な赤字の規模に驚愕したのではない。その赤字決算のロジックのなさに驚愕したのである。

 日本の電力会社は様々な規制に守られ地域独占という業態で事業を営んでいるが、立派な株式会社である。それなのに株主に対する経営戦略の説明らしきものは一切なく、まるで「コストの安い(?)原発の再稼働ができないので、ひどい赤字になりました。電力料金に転嫁します」というメッセージを発しているかのようだ。これを経営戦略不在の日本型経営と呼ばずして何と呼べばよいのか。

 株式を発行しておきながら、株式の成長戦略を語るロジック(エクイティーストーリー)が一切語られることはなく、2012年9月の東電の値上げ(8.46%)に続いて、5月から関西電力(9.75%)、九州電力(6.23%)に至っては大幅電力値上げがなされている始末である。この値上げの流れは今後も続き、東北電力(11.41%)、四国電力(10.94%)両社とも7月めど、北海道電力(10.20%)は9月予定という状況である。

判然としない電気事業営業費用のコスト構造

 なぜ電力会社はこのような赤字体質に陥ってしまい、それを自らの経営改革で乗り切ることがあたかもタブーのようになってしまっているのだろうか?

 その鍵を握るのが「サンクコスト」(の錯覚)という考え方だ。ある事業戦略に沿って行った投資が失敗に終わってしまった場合、それにつぎ込んだ固定的費用をサンクコストと呼ぶ。サンクコストの存在は、その会社の経営単体で見た場合、経営体質の非効率の象徴となることが多い。

 電力業界ではまさに原発がサンクコストとなっているわけだが、この部分の固定的費用負担をどうするかは明確化されていないし、東電の経営再建問題過程では、これらサンクコストは国の責任であるとされている。

 電力会社各社の決算を見ると、ほぼ火力発電増加分が電気事業営業費用の増加に見合っている。これだけを見ると、あたかも火力発電に使う比例費としての燃料代が収益を圧迫しているかのように見える。