近年、日本の臨床研究に関する不祥事が相次いで明るみに出ている。2012年10月、東京大学の研究者によるiPS細胞の世界初の臨床応用詐称を、読売新聞が朝刊1面で大誤報した事件は記憶に新しいだろう(日本経済新聞)。

相次ぐ日本の臨床研究に関する不祥事

 この事件は、英国のネイチャー(Nature)誌や米国のサイエンス(Science)誌といった海外の一流科学誌でも写真入りで度々大きく取り上げられ(ネイチャー誌1ネイチャー誌2)(サイエンス誌)、ネイチャー誌の巻頭論説で「Bad Press」と題して、日本メディアの報道姿勢そのものまで、名指しで批判されるという不名誉な事態を引き起こした。

 この事件の直前の2012年6月には、もう1つ日本発の研究不正の金字塔が打ち立てられている。元東邦大学の麻酔科医が、吐き気止めに関する臨床研究の捏造を長年にわたり繰り返していたことが発覚し、少なく見積もっても172本という膨大な医学論文が撤回されたというもので、その数の多さにおいては世界的な新記録と考えられている(234)。

 これ以外にも、日本の医学研究者による著名医学誌での論文撤回事件は数々あり、2009年には世界最高峰の医学誌の1つ、ランセット(the Lancet)で昭和大学の研究者が(567)、2010年にもがん臨床研究分野での一流誌JCO(米国の臨床腫瘍学雑誌)で埼玉医科大学の研究者が(8910)、不正行為で論文撤回事件を起こしている。

 これだけ連続して発覚していたとしても氷山の一角に過ぎないのだろう。2013年の上半期でメディアを最も賑わしている大型事件は、産学連携での臨床研究データ捏造が疑われている高血圧治療薬バルサルタンの問題だ。

捏造大国日本

 アベノミクスでは医療分野も成長戦略の柱の1つとして位置づけられ、研究開発やイノベーション創出促進が掲げられているが、その足元はかなり危ういと見るべきだろう。2013年3月に発表された文部科学省科学技術政策研究所の集計によれば、日本の臨床医学論文シェアは「低下の一途を辿っている」と報告されている。

 逆に躍進著しいのが中国と韓国だ。日本の臨床医学論文数国際ランキングでは、全論文数こそ米国(27.9%)、英国(6.8%)、ドイツ(6.0%)に次ぎ第4位(5.6%)に付けているものの、論文の質の高さを示すTop10%補正論文数では第8位、Top1%補正論文数では第10位に順位を下げている。こうした状況の中、日本の臨床研究レベルにさらに疑問を生じさせているのが、上述した一流科学誌の誌面を度々飾っている日本発の不祥事だ。

 2012年10月、PNAS(米国科学アカデミー紀要)に、科学論文の撤回動向を解析した興味深い論文が発表された(1112)。

 臨床医学も含め科学研究は基本的に性善説で成り立っており、従来は撤回論文といっても意図的ではない単純ミスによるものがほとんどだと考えられていた。そもそも研究者が虚偽の論文を提出してくることは想定外で、研究者同士のお互いの公平な評価(ピアレビュー)という信頼関係で科学研究の世界は構築されている。

 ところが、過去の撤回論文2047件を精査したところ、単純ミスを原因とするものは21.4%に過ぎず、43.4%が捏造またはその疑い、14.2%が重複投稿、9.8%が盗作によることが判明し、また、その数や割合も年々増加していることが報告されたのだ。