「ソーシャル化する社会」連載30回目の節目にあたり、慶応義塾大学総合政策学部・環境情報学部(SFC)創設の中心的人物であり、日本のマーケティングにおける第一人者である井関利明慶応義塾大学名誉教授と小川和也による特別対談を4回にわたってお届けしている。

 最終回である本稿では、ソーシャルメディアによる政治や教育の変化、ソーシャル化する社会の未来に関する対談内容をお伝えする。

(これまでの連載はこちら:第1回『かつて印刷物は信用できないものだった』、第2回『いま企業に必要なのは「対話」と「ストーリー」』、第3回『生活者と企業の間に共感が生まれるプロセスとは』)

政治家は「個」として有権者と対話する時代に

小川:ようやくネット選挙の解禁が実現されます。政党や政治家がソーシャルメディアをどのように使うかが注目されている一方、いざ解禁されたらその使い方において混乱や試行錯誤が生まれると思います。

 井関先生は、政治とインターネット、ソーシャルメディアはどのように関わればよいと考えますか。

井関利明慶應義塾大学名誉教授(撮影:前田せいめい、以下同)

井関:政治は票を獲得するためのマーケティングと見ることもできますね。ただしインターネットを有効活用するためには、票の獲得ありきや一方的に情報を流すスタンスではなく、有権者と語り合ってストーリーを作っていく必要がある。

 有権者と政治家の間に共通のストーリーがあり、政治家はそのストーリーのひとつの役割だと考えればよいのです。ソーシャルメディアという、毎日顔を合わせなくても一緒にストーリーをつくれる場があるのですから。

小川:ソーシャルメディア時代は、いままで以上に「個」を意識する時代になっていると思います。

 その中で、政党政治という現在の前提はあったにせよ、政治家も「個」として主体的に情報を発信し、有権者とコミュニケーションを行いやすくなりつつあることはとても意義深いと考えます。

井関:ソーシャルメディアを介して有権者と対話することで自分が政治家としてつくられていく。みんなが関わり合うことを通じて、個と個、有権者と政治家が一体化するのです。

小川:政治家もある意味では市民と共につくるプロダクトですね。みんなで一緒につくっていく、共創して出来上がるプロダクトみたいなものというか。

井関:ソーシャルメディアと政治においては、まさにそういう観点が重要です。