AsiaX(アジアエックス) 2013年3月18日
「先端を行く」という意味の「ヒップ(HIP)」に、謙遜(Humility)、信頼(Integrity)、人を大切にする(People centred)と情熱(Passion)の頭文字をなぞらえ、学校のビジョンとしているのが、シンガポール初、中高一貫の芸術専門教育を行う公立学校のスクール・オブ・ジ・アーツ・シンガポール(以下SOTA)。
2000年から推進された、シンガポールをクリエイティブ溢れる文芸都市にするという「ルネッサンス・シティ」政策のもと、2008年に開校しました。
現在、13歳から18歳までの生徒約950名が、視覚芸術、音楽、ダンス、シアターの各専攻に分かれて、MRTドビー・ゴート駅近くの校舎で学んでいます。
2年前に新校舎が完成し、その独創的でモニュメントのような建築デザインが話題になったり、卒業生を送り出すのはまだ2回目の今年、SOTAが導入するインターナショナル・バカロレア(IB)プログラムで、学術的にも国内で上位を争う好成績をたたき出すなど、各方面から注目を集めてきました。
SOTAでは、筆記試験など相当厳しいことで知られるシンガポールの一連の教育システムから一線を画し、若く才能のある子供たちに早くから芸術教育に特化したカリキュラムを組み、芸術面とともに学業も優秀な生徒を輩出しようとしています。
「文芸両道」を目指すSOTA
風通しのよい広々としたオープンスペースが多く、街中でも落ち着いた雰囲気の校舎。
学生が常にクリエイティブな環境にいられるよう教室内外のデザインが配慮され、本格的な音響施設の整ったスタジオや劇場では、定期的に公演が行われています。
例年、約200名の定員枠にシンガポール人と外国人合わせて1000名近くが応募するという高い競争率からも、優秀な生徒が集まることが伺えます。
SOTAの学生は、週に15時間は専攻の芸術教育の時間にあてられる中、卒業までに国際的な高校卒業資格であるIBのディプロマ取得のための資格条件を満たさなければならず、その両立は、実際並大抵なことではありません。
SOTAの教育の現場では、各々の体験を通して、表現、発見することが奨励されています。
3、4年生の社会科を担当する日本人教師、森敏之さんによると、例えば、理科の授業で重力を教える場合、ダンスの先生をクラスに招き、バランスや動作からそれを理解したり、歴史の授業なら、名画や彫刻などを通してその背景から歴史を学ぶなど、教える側も趣向をこらしているのだとか。
多角的なアプローチとクリエイティブな教育環境
「生徒たちが自分が取り組む芸術を高めるために、学問知識の重要性を実感することにもなる」という、学びの鍵が窺えます。
また、在学中は、海外でそれぞれの専門分野のマスタークラスに参加したり、東南アジアの各国でアートを通したボランティア活動にも出かけるなど、様々な経験も生徒たちの才能を伸ばす一助になっています。
これら一連のビジョンの具現化には、学校創設の計画段階から関わった初代校長のレベッカ・チュウさんのリーダーシップも大きかったと、森さんは付け加えました。
国内で革新的な教育カリキュラムを実践するSOTAでは、2年に1度、「アート・イン・エデュケーション」という一般に開かれたフォーラムを開催。アートを教育の現場に取り入れるための実験的な試みの成果を発表、共有したり、海外からのゲスト講師も招聘しています。
シンガポールからの芸術的な才能を羽ばたかせると同時に、将来の教育システムや手法が生まれる現場ともなっているSOTA。その存在感は今後ますます増していくに違いありません。
文=桑島千春、写真=Eugene Chan
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