先日、来年度に向けての春闘で、大手自動車をはじめとするいくつかの日本を代表する企業が一時金満額回答をしたとのニュースが報じられた。おおむね、日本の景気回復を裏付け、賃上げの流れをつくる明るい話として伝えられている。
一方で、円安誘導をした政府とその恩恵を受けた企業の「政財界出来レース」だという意見や、そもそも要求水準が低いという指摘もある。
経営の現場にいる筆者としては、「賃上げで消費を促し、景気を良くする」というストーリーは分からなくはないが、どうしても「明るい話」というイメージが湧かないし、なかなか腑に落ちてこない。
率直に言うと、「本当にこれで日本は良くなるとみんな思っているのだろうか」という違和感、疑問が拭い去れないのだ。
いまだに春闘が繰り広げられる違和感
その違和感は何なのだろうと考えてみると、まずはこの「春闘」である。
そもそも企業における労働組合という存在自体が、あまりにも時代錯誤のような気がしてならない。これだけ個々の能力に即した能力給や年俸制が取り入れられ、人材の流動性が高まっている中で、いまだに給与の一律交渉をする場があるというのが、やはり不思議である。
「それはIT業界にいるからだろう」と言われるかもしれない。確かに我々が春闘とは縁遠い業界であることは認めるが、必ずしもそれだけではないだろう。
組合や春闘の形骸化は、今に始まったことではない。筆者が20年ほど前にメーカー勤めをしていた頃からそうだ。毎年決まった時期に、形だけの交渉結果が印刷物として組合員に配布される。しかし誰もがそれを冷ややかに見ていた。
いまだに労働組合が従業員の生活を守っているという日本の会社は本当に大丈夫かな、と思えてしまうのである。
「風が吹けば桶屋が儲かる」流れが見えてこない
もう1つ、素直に受け入れられない点は、この「所得が増える(であろう)」という現象が、我々が関わる「企業のIT投資」を活性化させるまでの流れが見えてこないことだ。一時金満額が「風」だとして、「風が吹けば桶屋が儲かる」という話のつながりがなかなか描けない。