東日本大震災は、もちろん戦争ではない。しかし、その被災者救援や被災地復旧活動には、国防組織である自衛隊が10万名体制という空前の規模で投入され、大いに活躍した。

 また、自衛隊・消防・警察をはじめとする日本固有の災害救援活動を援助するために国際社会から災害救援隊や軍隊などが派遣された。それら数多くの国際支援活動の中でも最大の規模であったのが、同盟国アメリカが1万8000名もの大軍を投入して実施した人道支援・災害救援活動(「トモダチ作戦」)であった。

大きな軍事的教訓を引き出せる災害救援部隊の活動

 1人でも多くの人命を救い、一刻も早く悲惨な被災地から被災者を安全な地域に移動させるために災害救援部隊が急行し、捜索救援活動を実施しなければならない「被災地域」を、大規模軍事攻撃を受けた場合の「戦災地域」、あるいは局所的(いわゆる離島など)な「被占領地域」と読み替えることにより、東日本大震災の被災地に対する自衛隊やアメリカ軍による人道支援・災害救援(HADR)活動から軍事的教訓を引き出すことが可能である。

 敵の軍事攻撃を受けて大損害を受けた戦災地域は、ある意味では大規模自然災害の被災地と類似している。現時点において、日本に対しては弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルによる攻撃が最も蓋然性が高いのであるが、自然災害と違い、戦災の場合、敵の攻撃が繰り返される恐れもあり、また敵が攻撃に放射性物質や化学兵器や生物兵器を使用している恐れもあるため、戦災被害者の救出保護に急行するのは軍隊が望ましい(ただし軍隊が十二分なCBRNE対処装備と訓練を積んでいるのが大前提である)。もちろん被占領地域から敵を駆逐したり撃破して住民を救出保護できるのは軍隊だけである。

 このように考えると、東日本大震災での空前絶後の広大な被災地における捜索救難活動ならびに避難被災者に対する支援活動からは、戦時における被攻撃地域や被占領地域に対する住民救出作戦ならびに占領地回復作戦にとって大きな軍事的教訓を引き出すことができる。というよりは、引き出さなければならない。

「海の活用」「CBRNE被害への対応」という課題

 東日本大震災から2年が経過したとはいえ、実際にトモダチ作戦に参加したり関与したアメリカ軍関係者たちの多くとは、トモダチ作戦や東日本大震災、そして福島第一原発事故などから学んだ教訓について、それも日本の国防システムにとって生かすべき教訓に関して話し合う機会が少なくない。それらの中でも、とりわけ筆者が話し合う機会の多い海軍・海兵隊関係者たちとの間で話題に上るのは、日本の国防政策における「海から陸へのアクセス」という発想、あるいはより幅広く「海の活用」といった構想が弱体である、という点である。