カンザス州に住むウィリアム・マロッタ氏(46)のいたってのんびりした生活は、州から届いた1通の手紙で激変した。州が、彼に未払いの子供の養育費を請求してきたのだ。その額は、およそ6200ドル(55万円)。

 その子供とは、マロッタ氏が以前ネットを通して寄付した精子によって生まれた子だった。

 この事件がきっかけで、精子提供ビジネスの驚くべき現実が明らかになった。

父権放棄の書類にサインしたのに・・・

 事件の経緯は以下の通りだ。

 2009年、ネットコミュニティサイトの「クレイグズリスト」に、カンザス州在住のレズビアンカップルが、精子を求める広告を出した。謝礼として50ドル支払うことと、法的な責任を免除する書類にサインすることが明記されていた。

 近くに住んでいたマロット氏は、広告を出したレズビアンカップルに会い、2人が血縁関係のある子供を切望していることに同情する。そして妻と相談したうえで、無償で精子を提供することを決めた。

 その後、コップに入れた精子を提供し、「父権を放棄し、子供に関するすべての経済的責任、法的責任を負わない」という書類に関係者全員でサインした。

 マロット氏は、提供した精子がどのような運命をたどったか興味もなかった。ただ同じ町に住んでいるので、風の便りに女の子が生まれたと聞いた。一度だけ地元の祭りで、レズビアンカップルと幼い娘にばったり出くわしたことがあったが、それ以外に関係はなかった。

 しかしこのレズビアンカップルは間もなく別れてしまう。さらに、子供の親権を得た女性は、病気になり、働くことができなくなる。

 生活に困窮した彼女は、カンザス州に生活保護を申請した。書類審査の段階で、州の担当者から父親の名前を明かすように強要される。女性は、父親が単なる精子ドナーであることと、あらゆる法的責任から免除されている書類があることを告げ、マロット氏の名前を伝えた。

 その直後に、記事冒頭にある養育費請求書がマロット氏に届いたのである。