「債務者が分散されていれば、延滞するリスクは小さくなる」という統計学的な理由で、高い格付けを付与していたのだろう。しかしパリバ・ショックやベア・スターンズ破綻などで明らかになったように、経済環境が一方向に傾くと「リスク分散効果」はあっけなく消えてしまう。そして失業率上昇などマクロ経済環境の悪化に伴い、資産の劣化が一気に進んでしまった。
こうした商品を保有していた金融機関の資産も劣化し、信用仲介機能が麻痺した。その結果、証券化商品の問題が実体経済の全体に及び、リーマン・ショックで世界的に信用収縮が始まった。有効需要と信用機能を回復するため、その後の各国は莫大なコストを背負うことになった。
ギリシャが「生贄」となり、「次はお前だ!」
しかし今度は、需要回復のために発行した大量の国債が世界経済の新たな火種となってしまった。
2010年に入り、「ギリシャ国債が欧州中央銀行(ECB)の担保基準を満たさないのではないか」という懸念が表面化すると、資金の偏在化が急速に進んだ。同一の金融政策の下でありながら、ドイツ国債とギリシャ国債の利回り格差は大幅に拡大。すなわち、両国の信用力の差を市場が強烈に意識するようになった。
一方、格付け機関は容赦なくギリシャの格下げを断行し、同国債の担保価値は著しく損なわれた。すると、「ギリシャ国債を保有し、資金調達に支障が生じる金融機関を探せ」という地合いになり、リーマン・ショックの時のように信用仲介機能に対する懸念が生じることになった。
ギリシャが「生贄」となった後、財政収支の悪い国が軒並み「次はお前だ!」と標的になった。これでは緊縮的な財政政策を模索しなければならず、折角の財政出動で軌道に乗りかけた経済が再び悪化してしまう。
完治していないリーマン・ショックの傷
各国の企業は人員削減などのリストラで収益体質の改善を図り、2009年度決算では予想以上の利益を計上した。いわゆるポジティブサプライズである。四半期決算ごとに市場予想を上回る企業利益を材料に、世界的に株価は上昇を続けた。景気二番底懸念は後退し、雇用問題も徐々に解決に向かい、2010年冬には米国の金融緩和が終焉する可能性さえ論議されるようになっていた。

景気対策で一時的に財政収支が悪化しても、経済が成長軌道に回帰すれば税収増加をもたらすから、時間をかけて国家債務比率の適正化を図る目論見であった。
日本も国内需要は弱いため、海外需要を取り込んで辛うじて危機脱出を図った。足下の企業収益は回復しているものの、家電のエコ減税や自動車取得税優遇など国内外の異例な財政政策に頼る部分が非常に大きい。依然として失業率も高く、マクロ経済の体質は脆弱なまま。当然、法人税収も落ち込みが続いている。