しばらく大きな軍事衝突が回避されてきたイスラエル・パレスチナ紛争だが、11月14日、イスラエル軍とパレスチナ組織「ハマス」との戦闘が一気に激化した。イスラエル空軍は連日ガザ地区を大規模空爆し、19日朝までにハマスの軍事拠点や政治施設など計1350カ所もの目標を攻撃(イスラエル国防軍発表)。さらにハマス軍事部門幹部を狙った暗殺攻撃も実行した。結果、19日夜までに、巻き添えの市民を含め、108人もが殺害されている(ロイター通信)。

 ハマスもやはり連日、数十から百数十発ものロケット弾をイスラエルに撃ち込んでいて、その総数は19日夜までに約650発に達した(イスラエル国防軍発表)。イスラエル軍は対砲迎撃システム「アイアンドーム」でそのうち約340発の迎撃に成功したが(同)、イスラエル側でも3人の市民が犠牲になっている。

 ハマスのロケット弾は主要都市のテルアビブやエルサレム郊外にも到達しており、イスラエル側の危機感はこれまでになく強い。イスラエル軍はすでに境界付近に地上部隊を集結させ、大規模な侵攻の準備を着々と進めている。エジプトや欧州諸国が調停に動いており、20日にはイスラエル政府が24時間の地上作戦発動延期を発表したが、実際には両者ともに攻撃の手は緩めておらず、今後の予断は許さない情勢だ。

 戦力比から圧倒的にパレスチナ側の被害が大きくなっているが、実は、そもそも今回の衝突の引き金を引いたのは、パレスチナ側である。11月10日より、ガザからイスラエル側へのロケット弾攻撃を始めたからだ。

 しかし、パレスチナ側からのこうした攻撃は、過去にも起きていたことである。イスラエル軍はその都度、限定的な報復攻撃をするのが常で、つい最近も10月下旬にこうした応酬が発生している。

 今回、イスラエル軍は同12日からガザへの空爆を断続的に行っていたが、14日に「防衛の柱作戦」(Operation Pillar of Defense)を発動し、一気に作戦規模を拡大した。特に同日にハマスの主要軍事部門「イッザルディン・アル・カッサム旅団」の最高幹部の1人であるアハマド・ジャバリ司令官を、移動中の車両を狙い撃ちして爆殺したが、これが両者の攻撃の応酬を一気に加速させた形になった。

 つまり、(1)パレスチナ側が先にロケット弾攻撃を仕掛けた、ことと(2)イスラエル軍が過剰な報復に出た、ことの2点が、今回の紛争激化の主要因となったと言える。

パレスチナはなぜイスラエルを挑発したのか?

 パレスチナもイスラエルも、なぜ今このような行動に出たかについては、複雑な要素がある。イスラエル側については、2013年1月に選挙があるため、ネタニヤフ政権が強硬姿勢をアピールしようとしたとの説がある。これはおそらく要因の1つである。

 パレスチナ側はもっと複雑だ。まず、最初に攻撃を仕掛けた勢力が、ガザを支配するハマスの主流派だったかどうかすらが不明だ。

 ハマスにはもともと、様々な派閥がある。概して、ガザの政治指導部は比較的穏健派が多く、それに比べると軍事部門や海外拠点の政治指導者には強硬派が多い。そんな中、軍事部門の一部が勝手に軍事行動に出ることも十分にあり得る。それでもハマス内部では、対イスラエル攻撃は“大義”のための聖戦であり、常に肯定される。