マット安川 「戦争には、ならない」。 今回のゲストである池さんは「哨戒艇沈没事件」の行く末をこう断言しました。

 韓国には米国、北には中国、と関係を崩すわけにはいかない相手がいること、さらに国際社会から向けられる目が重要であることが、主な理由と言います。

 南北両国が、自らと相手の置かれている環境を知り尽くしてつき合っているのだ、と。

 さて、我が国はどうでしょう? 基地移設問題一つでここまで国家鳴動するのは、国防論や外交論以前に「虫のいい話」が飛び交っているからではないでしょうか。

韓国哨戒艦沈没事件は、昨秋の銃撃戦の仕返し

韓国海軍が対潜水艦訓練、哨戒艦沈没後初めて

韓国の哨戒艦が沈められたあと、初めて行われた韓国海軍による対潜水艦訓練〔AFPBB News

 韓国の哨戒艦沈没事件が起きたのは3月26日のことです。原因が北朝鮮による攻撃と判明したのは5月15日でした。これほど時間がかかったのは、韓国がとにかく慎重に調査を行ったためです。

 1日に3億円もかけてクレーンで沈没艦を引き上げたほか、客観性を確保するために米国、英国のほか、スウェーデン、オーストラリアからも専門家を招きました。

 哨戒艦が沈没した海域には、朝鮮戦争の時に両国が敷設した機雷がまだ3000個ほど沈んでいます。60年も前から海底にある機雷が今になって爆発することはないと言われますが、そうした可能性も踏まえた丹念な調査でした。

「マット安川のずばり勝負」ゲスト:池東旭/前田せいめい撮影池東旭(ち・とんうく)氏(右)
ジャーナリスト。韓国慶尚北道大邱生まれ。韓国日報勤務を経て、1981年『週刊韓日ビジネス』を創刊。経済、国際問題など朝鮮半島の諸問題に関する論評を展開する(撮影・前田せいめい)

 結局、決め手となったのは底引き網にかかった魚雷の破片です。北朝鮮が海外に魚雷を輸出する際のカタログと照らし合わせたところ、一致したのです。

 北朝鮮の攻撃の意図は、昨年11月、同じ黄海で起きた銃撃戦の報復にあるようです。北朝鮮の警備艇が韓国側海域に侵入したことをきっかけに両国軍が交戦したのですが、この時、北朝鮮側は複数の死傷者を出し、ほうほうの体で逃げていきました。

 これに怒った金正日は必ず仕返しすると宣言した。にもかかわらず今回船を沈められてしまったのですから、韓国側に油断があったことは否めません。

北朝鮮は中国の支援がないと飛行機も飛ばせない

 すぐにでも戦争が勃発しかねないムードですが、私はその心配はないと考えます。北朝鮮は燃料も十分にない状態ですから、中国の支援がないと戦闘機を飛ばすこともできません。

 しかしその中国にしてみれば、今戦争など起こしてもらっては困る。朝鮮半島情勢が安定を欠くと自国の経済発展に影響が及びますからね。

 中国は北朝鮮による魚雷攻撃との発表に疑義を呈しました。国連安保理で北朝鮮への制裁を決議しようとしても、恐らく常任理事国として拒否権を発動するでしょう。これは北朝鮮の味方をしているというよりも、自国の縄張りを守るためです。