ニッケイ新聞 2012年8月23~28日

競技と共に報道レベルも向上

 感動と熱狂に包まれて、ロンドンオリンピックが閉幕した。今回のロンドンオリンピックで、ブラジルに在住する我々が、ブラジル国民と一緒に感動し、最も話題にし続けたオリンピック種目は、柔道であったのではないだろうか。

ロンドン五輪のメダル獲得者(写真:ブラジル講道館有段者会提供)、左から、フィリッペ・キタダイ選手(銅)、マイラ・アギアル選手(銅)、サラ・メネゼス選手(金)、ラファエル・シルバ選手(銅)

 五輪旗は2016年のリオオリンピック開催を目指して、早速リオに到着した。南米初のオリンピックは、このブラジルで、過去の歴史にない政治経済の安定、成長の時期に、開発途上国から先進国への仲間入りの歩みという画期的なタイミングで、4年後に開催されるべく準備が始まった。

 日本の柔道は本家としての面目を保つ成績が得られなかった事は事実だが、このことに対する不満が、ブラジルの日本人仲間だけでなく、日本の友人達からも柔道に携わるブラジルの我々にまで連日ぶつけられてきた。

 一方、ブラジルの柔道に関して言えば、当初から女子48キロ級サラ・メネゼスの金メダル獲得で始まり、今回のブラジル柔道の獲得数は4個で、全種目メダル獲得数の、2割が柔道で勝ち取ったことになる。過去累計の統計から見ても、1936年から現在までに、ブラジルが獲得した総メダル数約100個のうち、何と19個が柔道で勝ちとり、最大のメダル種目になった。

 大統領も、政府閣僚も、何事もうまく行くと、「これは一本だ」とか、「技有りだ」とか、柔道用語を表現に活用しているのをテレビ放送でも度々見た。2番目のバレーボール、3番目のヨットを、後塵に拝させ、日本の武道柔道は完全にブラジルの中心的スポーツとして定着したと言ってもおかしくない。

 今回のオリンピックは、今まで以上にイギリスから全世界に、最新で高性能の放送機器をふんだんに投入し、地上から、更には空からも多角的角度で画像を送った。

 カメラワーク、音声、照明の技術も巧みに駆使され、鮮明な画像で映し出し、更にはスローモーションの即刻再生という、迫力ある選手の素顔や、試合内容をつぶさに伝え、感動を深めてさせてくれた。

 グローボ、Esporte TV局だけでも、常時4チャンネルを使い、多種目を同時放映し、他局においても、様々な放送合戦を繰り広げた。商業的にも好結果が得られただろうし、ブラジル国民は今迄以上にオリンピックを堪能できたのではないだろうか。

 ブラジル柔道の好成績の主因は、IOCブラジルオリンピック委員会をはじめとして、政府のスポーツ振興局と柔道連盟がかなり早くから、予算の獲得、スポンサーの支援、マーケティング、選手の精神心理学専門家、広報担当者との連携を深め準備した結果であり、前大統領時代からもブラジルの主流オリンピック種目としての位置づけが、しっかり確立されたからと言えよう。

 今回のオリンピックのテレビ報道でも、取材するメディア向けに、事前に柔道の技や、審判ルールを細かく研究、勉強させ、更に各国の選手の試合歴や個人的情報についてまでも念入りに取材を重ねてきた。

 Esporte TV局の解説に当たったフラビオ・カントは、昨年までブラジルを代表する中量級の選手だったが、今回は解説者として契約され、柔道の歴史、ブラジルの柔道をこの国にもたらした日本人や、日本移民の歴史まで細かく正確に調査し、解説の中に織り込んで報道していた。