本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 企業を取り巻く利害関係者との関係を表す「(その3)共存共栄」は、本流トヨタ方式の根幹とも言える考え方であり、行動規範でもあります。企業が第2優先に取り組むべき関連企業との関係について、前回は「トヨタ生産方式自主研活動」の起源のところまでお話ししました。

 今回は、筆者の体験を基に、この通称「トヨタ自主研」の中身をお話ししましょう。

「君たち技術員は会社の『ひも』だと思え」

 1967年、筆者はトヨタ自動車工業(自工)に入社しました。当時、製造部門と販売部門(トヨタ自動車販売=自販)は別会社でしたが、新入社員教育の前半は一緒に勉強しました。まだトヨタは小さな会社で、新入社員は自工が150名、自販が30名だった記憶があります。

 8月に筆者は高岡工場の製造部 技術員室に配属になりました。「技術員室」という職場はトヨタ独自のモノなので説明しておきます。

 通常、どこの会社でも製造部の構成は「部長 ~ 課長 ~ 工長(職長)~ 組長 ~ 班長 ~ 一般技能員」という、いわゆるピラミッド型のライン組織になっています。この製造部を品質面でサポートする検査部があり、技術面をサポートする生産技術部があり、残りすべてをサポートする工務部があります。

 ところがトヨタの製造部の中には、ピラミッド型のライン組織の横に、部長直属のスタッフ組織がありました。その名を「技術員室」といいます。

 技術員室は名前の通り、技術員が集う「室」で、所属する技術員は誰もが一匹狼でした。上下関係はありません。まとめ役として課長クラスがいれば主担当員と呼び、係長クラスであれば担当員と呼びますが、あくまでもフラットな組織でした。

 一番の驚きは、技術員室に定常業務はないということです。配属された時の主担当員の言葉が今でも思い出されます。

 「君たち技術員は『ぶら下がり』であり『ヒモ』の身分であり、現場で汗して働いている人の給料をピンハネしているのだと思え。申し訳ないと思ったら、工場長になったつもりで現場の隅々まで目をやり、現場の人たちがかく汗を少なくしろ。そして、年間1億円以上稼ぐことを考えよ!」

 この言葉を行動規範として、筆者はその後、組立工程の大改革に取り組みました。その話は後日に回します。

 製造部の部長や課長の業務は多忙を極めます。製造現場が課題を抱えていても自分自身で解決していく暇はないのが普通です。また、その解決にはある程度以上の技術力が必要です。代わって解決するのも技術員の仕事でした。

 さらにトヨタでは、ものづくりの技術を「生産技術」と「製造技術」にきっちり分けて取り組む文化がありました。生産技術を担当するのが生産技術部。そして、製造技術を担当するのが技術員室でした。ちなみにトヨタ生産方式は製造技術の塊なのです。