カンボジアの首都プノンペンで開かれた今年のASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラム(7月9~13日)は、開催45年目の歴史で初めて共同声明を採択しなかった。原因は、南シナ海の2つの諸島を巡る領有権問題の先鋭化である。

 1970年代以来、長きにわたって中国、台湾とベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイの6カ国が、南シナ海にある2つの諸島、「南沙(スプラトリー)諸島」と「西沙(パラセル)諸島」の領有権主張で対立を続けてきた。

 南シナ海は重要な航路であるとともに海底埋蔵資源(石油、天然ガス)の存在が見込まれ、さらに良質な漁場を形成している。100以上の島や岩礁からなる南沙諸島などの領有は、その周囲に広大な範囲で形成される排他的経済水域(EEZ)をもたらすことから、各国ともに領有権主張で簡単には引き下がれない状況である。

西沙諸島を武力で奪い実効支配する中国

 その中でも、中国の行動は突出してきた。南沙諸島すべての領有権を主張する中国は同海域に船舶を派遣し、ASEAN地域フォーラム開催以前に同諸島の中のスカボロー礁(中国名・黄岩島)領有を主張するフィリピンの艦艇と2カ月以上にわたる洋上にらみ合いを継続。中国側艦艇は、海域からのフィリピン漁船追い出し作戦を展開した。

 ASEAN地域フォーラム終了後は、同じ海域に、政府の漁業監視船を伴わせた30隻もの中国漁船団が現れ、操業を開始している。フィリピンとの紛争が表面化して以来、同海域に現れた中国船団としては最大規模だ。

 また、ベトナムが領有を主張する西沙諸島では、1951年、中華人民共和国建国から2年経った段階で中国軍がその一部を上陸占拠し、ベトナム戦争中の74年には同諸島に展開していた南ベトナム軍(当時)と中国軍が衝突し、結果として勝利した中国側が諸島全部を実効支配するに至っている。

 ベトナムは社会主義政権成立後、西沙諸島返還を求めたが、中国は一向に応じなかった。それどころか最近は周辺海域で中国海軍が演習を展開するなどして実効支配を誇示し、ベトナム国民の対中国感情を悪化させている。

 さらに、7月17日、中国の海南省人民代表大会常務委員会(議会)は、南沙、西沙、中沙の3諸島で構成されるとする「三沙市」を発足させ、市議会のほか、警察署、裁判所などを含む「三沙市人民政府」を西沙諸島の永興島に設立した。西沙諸島の実効支配と南沙諸島の領有権主張の根拠づくりのため、既成事実の積み重ねを進めようとしているのだ。