去る5月18日に公表された米国防総省の議会向け報告書「中国軍事力・安全保障年次報告」は、えらく評判が悪かった。

 確かに前年度版に比べ、ページ数が減っているし、記述がコンパクトになったため、分析も浅い印象は拭えない。なぜそうなったかの詮索は措くとしても、それにもかかわらず中国が例年通り強く反発しているところを見ると、それなりに中国が嫌がる内容になっていることが分かる。

 ここでは、この報告書と前後して生じた台湾向けの「F-16C/D」戦闘機供与問題の「復活」と合わせ、検討してみたい。

 毎年恒例の米国防総省による中国の軍事力評価年次報告は、2011年からタイトルを変更し、中国の国際的軍事交流や国際平和維持活動などにも注意を払うものとなった。

 表題である“Military and Security Developments Involving the People's Republic of China”について、新聞報道等を見る限り、まだ日本語の定訳がないようだが、日本の防衛省では「中国の軍事力および安全保障の進展に関する報告書」と訳している。また、外務省系のシンクタンクである日本国際問題研究所では、「中華人民共和国の軍事動向に関する年次報告書」という訳を使っている。簡潔であることをよしとするなら、「中国軍事動向年次報告書」あたりが適当であろう。

「中台の軍事バランスが失われている」という指摘に反発

 さて、この報告書のどこが気に食わなかったのかを、中国の報道から見てみたい。5月21日付の人民解放軍機関紙「解放軍報」によれば、「引き続き中国の正当な国防・軍建設についてみだりに論評し、いわゆる『中国の軍事的脅威』や『中国の軍事力の不透明性』を誇張し、いわゆる台湾海峡両岸の軍事力のバランスが失われていると煽りたて、中国の宇宙およびサイバー安全保障に疑義を呈した。中国はすでに米国側に厳正な申し入れを行っており、これについて強い不満と断固たる反対を表明する」としている。

 これをもっと詳しく述べたのが中国国防部の耿雁生報道官である。同報道官は記者会見で次のように強調した。

 「アメリカは海峡両岸関係の平和な発展という事実を無視しており、“両岸の軍事力は均衡を失っている”と故意に吹聴し、両岸関係に水を差し、自らの台湾への兵器売却に口実を作っている。中国はこれに断固として反対する。