数年前に、中国の若者たちが『中国可以説不』(ノーと言える中国)という本を出版し、アメリカに毅然とした態度を取るよう中国政府に求めた。しかし最近になって、こうして嫌米感情をあらわにした作者の1人がアメリカに移民したことが明らかになった。中国人の本音は、実は決してアメリカが嫌いではないようだ。
最近、中国で重慶事件が起きたが、これも、重慶市副市長で公安局長だった王立軍氏が米国重慶総領事館に駆け込んだことがきっかけだった。アメリカ政府は王立軍氏の政治亡命を受理しなかったが、中国人にとってアメリカは憧れの存在なのかもしれない。
そして、米中関係の行方にさらに大きな影響を及ぼしうる事件が起きた。山東省の盲目人権活動家・元弁護士の陳光誠氏が軟禁状態から脱出し、北京にある米国大使館の保護下に入ったのである。
王立軍氏は共産党幹部であり、人権活動家ではなく、中国政府からの迫害も受けていなかったため、彼の政治亡命を受け入れなくても、アメリカでは議会などに非難されることはない。
しかし、盲目人権活動家の陳光誠氏は、中国の農村部での人権侵害実態を明らかにしようとしたため迫害を受け、裁判所の判決もなく自宅軟禁された。陳光誠氏の政治亡命をアメリカ政府が受け入れなければ、アメリカの建国精神に反してしまう。
しかし、大方の予想に反して、アメリカは2人の亡命申請者を中国政府に引き渡した。この不自然な結果は何を意味しているのだろうか。
重慶事件にまつわる2つの謎
王立軍氏は重慶市共産党書記・薄熙来氏の腹心の部下だった。王立軍氏が米国重慶総領事館に駆け込んだことがきっかけとなって、薄熙来氏は失脚した。
中国政府の公式発表によれば、薄熙来氏は重大な過ちを犯したとして重慶市共産党書記の職を解任された。同時に、薄熙来の妻である谷開来氏はイギリス人の投資家へイウッド氏の殺害に関わったとして逮捕され、司法手続きに入ったと言われている。だが、薄熙来氏がいかなる重大な過ちを犯したのかについて、いまだに明らかにされていない。
薄熙来氏が失脚する直前、3月初旬に開かれた「全人代」(=全国人民代表大会:日本の国会に相当)に参加した際、薄氏は記者会見で「米国への政治亡命を申請した王立軍氏を任命した責任は自分にあるが、私が重慶市で行ったことは間違っていない」と明言した。