ここで仮説を立てて問題を整理することにしよう。二人三脚の関係にあった王と薄は、何らかの出来事をきっかけに激しく対立するようになった。王は薄のことを知り尽くしている。自らの秘密が王によって暴露されてしまうことを恐れ、薄は王を消そうとする。

 王が薄から逃れるには、2つの方法が考えられた。1つは共産党の上層部に薄を告訴すること。しかし、王はこの選択肢を選ばなかった。もう1つは第三国に亡命すること。結局、王はこの方法を選んだようだ。

 王と薄が何を巡って対立するようになったかは明らかではない。ただし、この数年、王と薄が重慶で行ったこと、すなわちマフィア撲滅キャンペーンについて明らかに行き過ぎがあったことは確かだ。正式な法的手続きを踏まず、人を逮捕し、容疑者を拷問したりしたとネット上で暴露されている。

 薄がマフィア撲滅を急いだ目的は、今年の秋に開かれる第18回党大会で自分にとって有利になる材料と成績が欲しかったからと見られている。薄は、共産党中央委員会常務委員に届く距離にいる。しかし、薄はいささか急ぎ過ぎたようだ。

中国で激しい権力闘争は日常茶飯事

 2012年は、世界の主要国で政権交代が予定されている。中国では秋に共産党代表大会が開催される予定であり、そこでポスト胡錦濤の新政権の顔ぶれがほぼ決まると言われている。

 中国では、民主主義の選挙制度が取り入れられていないため、次期指導部の選出は胡錦濤や江沢民など長老の話し合いによって決められる。だが、そのルールがはっきりしていないため、権力闘争に発展している。

 現状では、2世議員を中心とする「太子党」と、共産主義青年団からなる「団派」との対立が激化している。次期国家主席に就任予定の習近平は、太子党のリーダー役である。一方、現政権を掌握している胡錦濤グループは、いわば団派である。

 今回の事件は、換言すれば、団派が太子党の薄を追い落とすことで巻き返しを図ったものという見方ができる。現在、薄が取り調べを受けているだけでなく、夫人の谷開来も連行されていると言われている。