「ザッポス」という名前を耳にして、すぐにピンとくる方はかなりIT業界に通じている。
靴のオンライン小売としては全米最大で、台湾系米国人トニー・シェイ最高経営責任者(CEO)(38)が同社を急成長させ、2009年にアマゾンに約12億ドル(約925億円)で売却したIT企業だ。
ここまでは米国でよく耳にする企業の成功譚である。シェイ氏は現在もザッポスのトップに君臨し、同社の軌跡については書籍『ザッポスの奇跡:アマゾンが屈した新流通戦略とは』や『ザッポス伝説』に詳しい。
これまでの億万長者とは違った道を歩む
だが30代にして超がつく億万長者になったシェイ氏の次なる動きが、これまでのIT業界トップたちといささか違う。
新規株式公開(IPO)や売却で100億円以上の資産を手にした若手起業家、例えばアップルの故スティーブ・ジョブズ氏やフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏のように、シェイ氏もジーンズにラフなシャツを身につけるという点では同じだが、今後のビジネス展開の方向性に特異性がある。
IT企業のほとんどがカリフォルニア州シリコンバレー周辺に本社を構える中、シェイ氏はカジノの都ネバダ州ラスベガスに本社を移した。次なるターゲットがカジノ業界での荒稼ぎというわけではない。
今後数年で、ラスベガスという町を再開発する野望を胸に宿す。過去20年、ラスベガスには巨大なテーマホテルが乱立し、ギャンブルだけでなくコンベンションやスポーツイベントが数多く催されてきた。砂漠だった町は世界最大規模の歓楽街へと変貌した。
しかし、それはテーマホテルが立ち並ぶ地域に限られている。20世紀半ばに賑わった旧市街(ダウンタウン)は今でも寂れたままだ。
日本でも地方都市に行けば、旧市街が「シャッター通り」と化し、町の賑わいが他地域に移った状況を見られる。「ここを何とかできないか」との思いである。
シェイ氏は今、廃れた旧市街を「ミニ・シリコンバレー」に造り替える計画を進行させている。まずラスベガスの旧市庁舎に本社を移転させ、3億5000万ドル(約270億円)という巨費をポケットマネーから拠出し、再開発の陣頭指揮を執っている。