4月10日、ポーランドのカチンスキ大統領を乗せた大統領専用機が墜落し、大統領とその妻、および乗り合わせた政府高官らが死亡した。
大統領専用機は、「カティンの森事件」の追悼70周年の式典に向かう途中で墜落した。カティンの森事件は、第2次世界大戦中にロシアとポーランドの間で起きた事件である。
モスクワから西に向かって400キロ弱のところに、スモレンスクという古い町がある。その近郊の森で、ポーランドの軍人と警官、役人、聖職者などが、ソ連の内務人民委員部(NKVD)によって大量に銃殺された事件だ。カティンの森では、約4400の遺体が見つかっている。
これはポーランド人にとっては忘れられない悲劇であり、長年にわたってロシアとポーランドの関係を複雑にしていた一因でもある。
戦後、この事件は歴史の闇の中に葬り去られていた。だが、ロシアは1990年代に入って事件を公式に認め、事件に関する文書を公開した。社会主義体制だったポーランドでも長らく事件について語ることはタブーとされていたが、最近、ポーランドの著名な映画監督、アンジェイ・ワイダ氏が「カティンの森」を題材にして映画を製作した。
大統領専用機が墜落する数日前には、ロシアのプーチン首相とポーランド首相が共にカティンの記念碑の前にひざまずき、十字を切っていた。ようやく事件について両国が和解するムードが生まれつつあった。
そうした中で、カチンスキが事故死したのである。ロシア人の記者はポーランド人の心情を察し、「第二のカティン事件にならなければよいが」と心配している。